□巷で噂のレモン味
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脳内ではそんな妄想を繰り広げるものの、実際に行動するとなると尻込みしてしまう臆病な俺。赤也にへタレと揶揄されるのもしばしだが、強ちそれも間違いではないようだ(不本意だが)。
あれから飴1つですんなり機嫌を直したブン太は、鼻歌を歌いながら俺の教室を出ていった。いつもは俺がブン太の教室に向かうが、今日は特別4限目が早く終わったから来てくれたらしい(ここら辺に若干の愛を感じる)。
愛くるしい笑みで手を振って教室を出るブン太を見送ると、俺は溜め息を吐いた。

「あー…もー…」

本当にどうしようもない。ブン太が側に居ればそれはそれで落ち着かないし、離れていたならそれは尚更だ。授業中なんて勿論、ブン太の事考える以外何しろってんだってくらい脳内丸井色。
ずるずるとうなだれる様に顔を伏せると、やはり瞼にブン太の笑顔が表れた。恋の病だなんて、到底笑えない冗談だ。そんな辛い状況が3週間も続いているのに行動しない俺は、やはりへタレ以外の何者でもなかった。
視界に5限目授業の教師が入って来たのを確認すると、俺はゆっくりと立ち上がる。同時になるチャイムは、俺の心を示すかの様に重苦しかった(俺にとっては、の話だ)。結局俺は部活開始までこの空気を纏う事になるが、何しろ毎日の事なのだ。悲しい事に慣れてしまった。












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俺は時々、本当に時々だが、立海大に入学した事を後悔する事がある。例えば、今日みたいな。

「よし、今日はここまで。整備に入れ」

柳の澄んだ声がコートに響き渡り、コートのあちこちから安堵の溜息が漏れた。ここがミソだ。歓喜ではなく、安堵。
立海大附属テニス部の練習は頭がおかしくなるんじゃないか、って位ハードだ。王者なのだから、まぁ当然と言えば当然なのだが。それにしても尋常じゃないのだ。別メニューを受けている1・2年が本当に羨ましい。

「ジャッカル君?平気ですか?」

練習の終わるまま座り込んでいた俺に、紳士が手を差し伸べてきた。サンキューと一言告げればその手を取り立たせてもらう(そこまで体力を消費している訳ではなかったが良心を無下には出来ない)。瞬間詐欺師の視線を感じたからすぐに手を離したが。



















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