□本棚の秘密
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「ただいま。あー…疲れた疲れた」
「おう、おかえり」

がちゃりと音がして玄関からジャッカルの声がする。壁の時計を見れば午後7時、予定通りだ。毎月第2木曜日、俺は大学の講義は丸1日休みでジャッカルも午後に2コマだけ。普段より少し早い夕食となる。疲れたとぼやきながらリビングに足を踏み入れたジャッカルをカウンターキッチンから見つめて、俺はにやりと笑んだ。
あれから軽く部屋の掃除をした俺は、夕飯の仕度に取り掛かった。ジャッカルの好きな焼肉だ。近所のスーパーでいつもより少しだけ高い肉と、普段なら我慢するアルトバイエルのウインナーを買ってきてやった(これは俺が食いたかっただけだけど)。

「何もない日に焼肉だなんてどんな風の吹き回しだ?」

テーブルに置かれたホットプレートを認めたジャッカルが、ひゅうと感嘆の口笛を吹く。確かに焼肉なんてよっぽどのことがない限り我が家の食卓に並ぶことはない。大学に行きながら出来る限りバイトを詰め込んでいるのにも関わらず、稼ぎはそう多くはなく、どちらかと言えば質素な生活を送っている俺たちだ。貧乏学生の運命だと言ってしまえばそれまでなのだけれど。そんな節約ライフの中、急に豪華なものが出てきたら、それはやはり戸惑うに決まっている。そして戸惑いながらも、その不意打ちに嬉しさを感じるはずだ。
それが俺の狙いだった。

「まぁたまには良いだろぃ」
「お前が食いたかっただけだろ?」
「ちっげーよボケ」

カウンターキッチンの中から軽口を叩いて、適当にちぎったキャベツをザルに入れてリビングの机に運ぶ。皿や箸なんかはもう並べておいたし、ホットプレートも保温しておいたから、すぐに食事に出来るだろう。ジャッカルは待ちきれないようで、早々に椅子に座り焼肉の準備を整え始めた(ジャッカルは意外にも奉行だ)。塩や胡椒、タレなんかを念入りにチェックする様は何度見ても違和感がある。ブラジリアンにホットプレートなんて似合いやしないんだ。

「おし、食うか」
「おうよ。あ、今日良いDVD借りてきたんだけど、」

いよいよ両手を合わせたジャッカルに倣い、俺も頂きますと呟く。そしてそのままテレビのリモコンを右手に取り、スイッチ、オン。






















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