OR

□蓮の花に良く似たそれ
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「弦一郎、側へ来てくれないか」

一人で悶々としていると、蓮二からそう声が掛かった。はっとして顔を上げればベッドに背を預け微笑む蓮二(彼の部屋には意外にもベッドがある)。隣を示す彼に頬へ血が昇るのを感じたが、それは決して嫌悪するものではなく、寧ろ望んでいた事であったので、慌ててそこへ向かった。

「し、失礼する」
「ふふ。あぁ、どうぞ」

密着して座ることが憚られ、僅か体を離して座ると、小さく鼻で笑われた。だが、今更座り直すことなど恥ずかしすぎて到底出来ないし、第一に不自然すぎる。
かと言ってこのままにしておく事もどこか違和感があるような気がして、俺はまた考え込んでしまった。

「考えるな、弦一郎。思うままに動けば良い」

ふと聞こえた声に隣を向こうとするも、肩へ僅かな衝撃が走り、固まってしまう。軽く首を傾ければそこにはさらさらとした蓮二の髪があって、あぁ、頭を肩に乗せられたのか、とどこか遠くに感じた。
きっとそれくらい、恥ずかしくて嬉しかったのだと思う(その時は良く分かっていなかった)。

「弦一郎が中々甘えてくれないからな」

俺から甘えてみた。
そう言いながら一度体を離した蓮二は、俺のガチガチと硬直した体に、今度はぴたりとくっつく様に座り直す。その様も美しくて見入ってしまったのだが。

「れ、蓮二…、」
「弦一郎は可愛いな」
「可愛くなど…!」

この大男を可愛い等と称す蓮二はどこかおかしいのではないかと、最近本気で思う。しかし、油断した隙に頭をくい、と引かれ、先程と逆の立場(蓮二の肩に頭を預ける形)に落ち着かされると、それどころではなくなるのだ。心臓が忙しなく動く。

「弦一郎、キスをしようか」

この男はまた突飛な事を。軽く跳ねた体に気付かれただろうか。聞こえないフリをしていると体を起こされた。

「……………、」
「真っ赤だぞ、大丈夫か?」

向き合う形になってしまい、蓮二の顔を近くに感じるとどうしようもなくなる。蓮二の表情が真剣な所を見ると、俺の顔は過剰な程に紅くなっているのだろう。自分で感じる火照り具合も、先程の比ではないのだが。

「平気だ」
「そうか?ならば良い」

す、と。
音もなく蓮二の手が延びてくる。繊細な飴細工の様な指が頬を撫でると、今度こそ本当にもう無理だと、そう思った。


















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