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□○○行進曲
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「ブン太っ!」

丸井先輩の悲鳴が聞こえるより先に、隣のコートで柳生先輩と打ち合いをしていたジャッカル先輩の声が響いた。パートナーである丸井先輩のことを気に掛けながらラリーをしていたようだ(機嫌が悪い同士の試合だったから尚更注意深く)。

「丸井!」
「おい大丈夫か?!」
「赤也ストップ。一旦試合中止ね」

周囲から丸井先輩を心配する声が上がるが、そんなの俺の知ったことじゃない。
すぐに2球目のサーブを放とうとポケットからボールを取り出すが、ちょうどその時幸村部長がコート内に入ってきた。丸井先輩の側に寄りながら試合の中断を宣言する。それが不満な俺は抗議しようとネット際まで詰めるが幸村部長はまるで取り合ってくれない。

「部長!何で止めるんスか!」
「良いから赤也はちょっと黙ってて」
「ブン太、大丈夫かよ…」
「丸井っ!」

ネットをラケットで激しく揺らすも幸村部長はこちらに一瞥たりともくれなかった。それどころか周りにいたギャラリーは全員が丸井の傍へ向かい、俺にはただただ畏怖を含んだ視線が送られるだけだ。レギュラーも、そうじゃない奴らも、皆丸井先輩の味方をする。
気付くと、俺は広いコートに一人きりだった。その一方で、見つめた場所には眉をしかめる丸井先輩がいて、その周りには人集りが出来ている。
漠然と俺が感じたのは、孤独だった。一度感じてしまえば孤独はますます増幅していく。痛いくらいに肌を焼く日差しがあるのに、身体の芯は不思議なくらい冷たい。

「あ、ぁ、あ」

ひょっとすると俺は世界中で一人ぼっちなんじゃなかろうか。自覚した途端、孤独は形を変え、ある種まがまがしい程の恐怖になった。身体を蝕む得体の知れない物体に、俺の頭はショート寸前に陥る。荒く息を吐き出しているというのに上手く酸素を吸うことが出来ず、全身ががくがくと震えた。目の前にあった景色はどんどん遠くなり、丸井先輩やら幸村部長やらジャッカル先輩やらの輪郭がぼやけだす。


その後はもう滅茶苦茶だった。


「―――――ッ!」

喉の奥から自然と声が漏れ出て、それはすぐに絶叫へと変化する。その癖俺の耳は何の音も拾わないから、俺は無音の世界の中にいて、とても現実とは思えない状況だった。閉じた瞼の裏はじりじりと焼け付くように熱く、目の端からぼろぼろと涙が溢れだす。金切り声を上げている喉は乾いて張り付き俺は途中で咳き込むが、どうしても絶叫を止めることは出来なかった。













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