OR

□アラウンドユー
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白石の思考は、俺には理解し難い部分がある。きっと俺みたいな常人には分からないような天才思考が働いているのだろう。別に口惜しいとも思わないし、僻むこともないだが、俺にとって白石と分かり合えないのだけは少しだけ困ったことだった。

「白石、」
「知らんて言いよるやろ。しばくぞ」

相変わらず視線も上げない白石に出来るだけ声を柔らかくして話し掛けてみるが全く効果を為さなかった。
それどころか伏せていた視線を持ち上げてギロリと音がするかと思うくらいに睨まれてしまう。

「すまん」
「健二郎、」
「何や」
「俺とおって楽しい?」

いきなり何を言うのだろうかこの子は。あまりに突然な問いかけに俺は思わずぽかんとしてしまう。すると白石はしまった、と言う顔をしてばつが悪そうに再び視線を下に戻した。またまた食された後のエビフライがいじめられる。

「すまん、忘れて。っちゅーか忘れろ」
「俺は、お前とおったら楽しいけどな」
「うっさい」
「テニスとか、テレビとか、色んな話して」
「うっさいっちゅうねん」
「遊び行ったり、ほんでたまにキスしたりして」
「うっさいわ!」
「楽しいんやけど、な」

どうにかして白石の視線を絡めとろうとするのだが、やはり白石は頑としてこちらを見ようとはしなかった。俺の言葉に幾分かの動揺は見られたものの、一向にその真意は分からない。相変わらずに弄られているエビの尻尾は、可哀相なことに最早原形を止めてはいなかった。だからと言って白石がエビの尻尾いじめをやめるとも思わないし、それどころか、とエビが済んだらそれこそ俺の皿へ動かされたパセリを狙ってくるのだろう。少し待っても白石が返答をしないことを確認して、俺はパセリを守るべく緑色へフォークを伸ばした。

「パセリうま」
「味覚音痴」
「ちゃうわボケ」

むぐむぐと口を動かしてパセリを咀嚼すると、何とも清潔感のある香りが鼻から抜けていく。俺はこの感覚がとても好きだった。白石は嫌いだと言うが(そして世間一般も)、食してみると意外にも美味しいのだ、これが。まあ嫌いだと言われてしまえばそれまでなのだけれど。











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