OR

□ぼくのつうしんぼ、ひとえまる
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「何ですか?」

観月の、俺の視線に挑み返すように向けられた光彩に疑問の色が浮かび、眉間に皺が寄せられる。綺麗な顔なのに勿体ないと、本気でそう思った。

「ん、いや、いつも世話になってんなと思って」
「べ、別にそんな、」
「ありがとう、観月」

右手を観月のくせっ毛へ触れさせ軽くくしゃくしゃと掻き混ぜて、おまけに皺のよった眉間を親指で緩く撫でてやる。少しばかり子供扱いしすぎたかとも思ったが、こいつだってまだ中学3年生だ(現に淳あたりは喜んで撫で受ける)。
しばらくそうしていても、観月はノーリアクションだった。反応がないあたり怒りに触れてしまったかと内心冷や汗をかいたが、頬を紅く染め上げる観月を見て俺の心臓はもっともっとびっくりすることになる。机に着いた手をわなわなと震わし、観月は首や耳まで紅く色付いたのだ。

「バカ、澤っ!」

しかしやはり、どうやら怒りに触れてしまったのは思い違いではなかったらしい。俺はやっぱり怒鳴られてしまった。溢れんばかりの怒りを爆発させた観月はそれでも真っ赤な顔をしているから、どうしても怖くない。照れてしまったのかと、逆に可愛く思えるくらいだ。あんまり紅く熟れるものだから、面白くてもう1度観月に手を伸ばした。今度は直に頬を撫でる。

「な、に、」
「あっちー、大事か?」

触れて分かる頬は燃えるように熱い。まだまだ赤くなるのかな、と、両手で観月の顔を包み込んでやる。するとそれは効果覿面のようで、観月の顔はますます真っ赤になってしまった。心なしか瞳が潤んで薄い膜を作っている気もする。

「は、」
「は?」
「離せっ!」
「お、悪い」

やはりお気に召さなかったのかと慌てて手を引こうとしたが、その前に観月は自ら後退り俺から距離を取った。首を左右に振り熱を散らそうとしているようで、そのさまがとても可愛いらしい。

「…、下さい」
「ん?」
「責任!取って下さい!」

一度下を向いて蚊の鳴くような声で何かを言った観月は、俺の問い掛けでばっと顔を上げ、鬼気迫る表情で叫んだ。これに驚いたのは俺だけでなく、教室にいた全員がびくりと肩を震わせこちらを見る。背中に突き刺さるような視線を感じて、俺は居心地の悪さに冷や汗が止まらない。

「な、何のだよ」
「言わなくても分かるでしょう!」
「分っかんねぇよ、俺バカなんだから」

背中を流れ落ちる気色の悪い水分を感じながら観月を見つめると(睨みつけるっつった方が合ってるかもしれない)、観月は僅か躊躇った後静かに口を開く。
俺を含めたその場の全員がごくりと唾を飲んだ。








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