□袋小路
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寝たふりをしてしまえ。そして明日謝れば良い。
わんわん鳴る携帯を放置して寝ようとするも、電話の相手は中々諦めようとしなかった。サブディスプレイに表示される名前なんて、見なくても分かる。彼しかいない。視線を流した先の壁掛け時計は、月明かりを受けながら午前2時を指し示している。こんな非常識な時間に電話なんてしてきて、自分みたいな何の面白味もない男に構われたがる。物好きな輩だ。

「……もしもし」
『あ、柳生?寝てた?』
「何時だと思ってるんですか」
『さあのう。俺の部屋にゃあ時計がないんじゃ』
「………で、用事は」
『うん、腹減ったなあって』

仁王の声色は、自分が電話したのはさも当然という風な感じだった。寝ぼけ眼を擦りながら手に取った携帯を耳に押し当てたまま、柳生は脱力してしまって、すぐにまた眠ってしまいそうだった。くだらない用件だろうなとは予想していたが、それを上回るどうでも良さだ。一応は通話を続けながら、再び布団に潜り込む。受話器の向こうの仁王の規則正しい呼吸音を聞いていると、より一層眠くなってしまう。ぼんやりとしてたゆたう思考の中、何だか自分もお腹が減ってきたような気がした。

『柳生?やーぎゅう?』
「はい、」
『腹減った』
「レトルトカレーかカップヌードルを作ったらどうですか」
『わ、わわ。珍しい』

ぷぷっ、と吹き出したあと、仁王は続けてくつくつと笑う。人に笑われることは誰にとっても快いことではない。柳生も例外ではなく、深夜に叩き起こされた理不尽さも手伝って何だか少しいらいらした。まず、何に対して笑われたのかさえ定かではないのだ。柳生の脳は相変わらず半分眠っているような状況であった。仁王の笑みはいっそう深くなってゆく。何がそんなに可笑しいのか、全くもって、仁王という男は不可解である。











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