□雅治のラビリンス
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溜め息を吐きそうになるのを何とか堪えて、仁王は宍戸を見据える。対する宍戸は俯いたままだ。これはあまりよろしくない展開だなあ、と思う。見るからに宍戸は頑固そうで、こちらから折れることは有り得なさそうだ。だからと言って向こう側が折れるかと聞かれれば、それはそれで違う気もするのだが。とにもかくにも、どちらかが折れないことには始まらない。何がって?柳生と仁王のデートに決まっている。

「いつもはどうやって仲直りしよったんじゃ?」
「大体は長太郎が謝って来て、」
「ほうほう、それが今回は違ったと」
「だからどうしていいか、分かんねぇんだよ。俺、バカだし」

自覚があったとは驚きだ(あ、本音が出ちまった)。確かに宍戸は真っ直ぐで躊躇いがなくて、そのせいで少しばかり損をしている。例えば、そう。仁王が得意としている詐欺の格好の標的になったり。
そこまで考えが及んだところで、仁王はにいと口の端を吊り上げる(俯いた宍戸は気付かない)。これは名案に違いない。

「のう、宍戸。鳳が何ちゅーたか覚えとる?」
「は?いつ?」
「柳生の腕ぐいってして、」
「……う、浮気するってやつか」
「そ。なあ宍戸。早う鳳取り返さな、柳生に食われちまうぜ」
「…………っ!!」

ばっ、と顔を上げた宍戸は顔面蒼白だった。小さく呟くように仁王へ「嘘だろ」「冗談だろ」「あいつ背高ぇし」と矢継ぎ早に反論する。しかしその都度仁王が「ほんとじゃ」「んなくだらん冗談言うか」「鳳は2年じゃから柳生の言うことにゃ逆らえん」「そういえば柳生と連絡つかんのう」だとか何とか適当な理由付けをして言い返すと、段々宍戸の声は聞こえなくなり、そして最後には黙りこんでしまった。少し考えれば、柳生も鳳もそんなに軽いノリでそういったことをする性格ではないことも、柳生が紳士であることも、そもそも鳳の好きな人は宍戸であるということも分かるだろうに。やはり頭が悪い、というより純粋なのだろうか。恋人と喧嘩をして切羽詰まった状態で、冷静に物事を見ることが出来ていない。目の前で表情にありありと焦りの色を浮かべた男を、仁王は表面上だけ真剣な顔で見返した。

「どうすれば、」
「ん?」
「どうすればいいんだよ!長太郎を助けるには!」


宍戸は頭が弱い分、特別なカウンター能力を持っているに違いない。助けなければ、なんて、柳生はまるで悪者扱いで、仁王は思わず吹き出しそうになったのをすんでで堪えた。こちらからすれば、今すぐにでも柳生を鳳から解放してやりたいというのに。これからしばらくの間、氷帝を中心に東京都内で柳生の株は大幅に下落するかもしれない。それはそれで詐欺のネタになるだろうから、一向に構いはしないが。
わずかに笑みに歪んだ口元を、気合いで無理矢理に修正して真顔を貫き通す。この辺りで柳生幸村柳は俺の真理を見抜くことが可能だったりするのだが、残念ながらやはり宍戸は切原丸井派らしい。可愛らしくて、どうにも苛めたくなる類の人間だ。











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