お前のクラスメートの女子が不慮の事故にあったらしい、とそんな事何処から仕入れてきたんだという情報をデータマン柳蓮二から伝えられた。
事故にあったのは東優雨という少女らしい。東さんはクラスの女子の中でもそれなりに仲の良い子だった。それでも、お気の毒にと少々の他人事で片付けてしまえる程度の関わりしか持っていなかったが。

それじゃあな精市、と言うだけ言って自分の帰路に付く柳。その背中にどうして今この情報をこのタイミングで伝えてきたんだと言ってやりたい。が、柳はそう言う男なのだ、多分深い意味は無いんだろう。

それでもやはり一応クラスメートなので容体がどうなったのかが気になる所だが、……どうせ明日学校に行けば嫌でも耳にすることになるだろう。

立ち尽くしそんな事を考えているうちに既に柳の後ろ姿は既に見えなくなっていた。
よし帰ろう、と歩き始めたところですうっと頭上に薄く影が差した。
そして、それと同時に聞いた事のある声が耳に届いた。




『あ、幸村君だ』

「……は?」



声のする方に視線を向ける。と、ぱちりと宙を彷徨う少女と目があった。その少女は紛れもない、先ほど事故にあったと言う東さんだった。
声を掛けてきたのは彼女の方なのに、何故か俺よりも驚いていた。って言うか、え、浮いて





『わぁ吃驚した、気付いてくれたの幸村君が初めてだよ』


「え?な、んで…?も、もしかして、幽霊、だったりするのかい?」


『えー?うーん…良く分かんないけどそうなのかな』



くるりと宙で一回転したり、逆さまになってみたり、泳ぐ真似をしてみたりと、自由奔放に飛び回っている。
楽しそうにしている彼女には申し訳ないが、取り敢えず一旦家に連れて帰ることにした。
















「で、だ。なんで東さんは幽霊なんかになってるの、て言うか本当に幽霊なの、生霊とかじゃなくて」



部屋に上げたはいいが、これまた縦横無尽に飛び回る東さんを座れと、ベットの上に正座させる。でも完全に地面に着地する事は出来ないらしくて微妙に浮いてるのがまた何とも言えない不思議な気持ちになる。まぁそれはさておき自分も東さんと対面するように正座する。


投げがけた質問に東さんは人差し指を口に当て暫く考える素振りしてからゆっくりと口を開く。



『どうなんだろう?てか、実のところ私も良く分かんないんだよねー
なんか、気が付いたらこうなってた、みたいなね。自分の生死すら分かんない状態だし』

「じゃあ何でこんなところ彷徨ってるの」

『心残りを果たす為?あれ、なんかこれじゃ私死んでるみたい』



あははと愉快そうに笑う東さんに対して、これぽっちも愉快じゃない俺はこの状況をどう打破するかを未だかつて無いほど真剣に考えるくらいには動揺していた。





「…どっちにしろ、その心残りを如何にかしないと話は進まない感じかな?」


『きっとね。でも、その心残りがなんなのか思い出せないんだよねこれが。事故のショックってやつなのかな?事故に遭う直前まで何かしようとしてたのは確かなんだけどさ』



そんな彼女の言葉に眩暈がした。どうしろってんだよ。
急に頭を抱えた俺に大丈夫?なんて心配そうに声を掛けてくれているが、全然大丈夫じゃない。




『あのさ、私の事見えてるの幸村君だけみたいなんだよね』


「……みたいだね」


『うんうん。でね、それでなんだけど迷惑だろうけどしばらく付き合ってください、私の心残り探し』




関わってしまったこと自体がそもそもの間違いだったのだ。幽霊だろうが何だろうが知らんぷりして通り過ぎていけば良かったのだ。
それでも、気付いてしまったのだから仕方ない、目が合ってしまったのだから仕方ない、俺と目があった後の東さんのとても嬉しそうな顔を思い出す。


そう、気付いてしまったのだから仕方ない。




「……東さんの生死についてはきっと明日学校に行けばわかると思う」

『うん』

「心残りについては、俺も君の友達とかに聞いたりしてみるから、君も死ぬ気で思い出せ」


びし、と東さんの眼鼻の先に指を突き出して言う。が、頑張ります、と身を乗り出して意気込む東さんに本当に大丈夫なのかすごく心配になったが、彼女が大丈夫と言っているんだからきっと何とかなるだろう、今はそう思うしかない。

早速浮遊しながら心残りについて頭を悩ませている東さん。突然、『あ、』と小さく声を漏らした。全くもって嫌な予感しかしない。



『一緒の心残り探すついでと言っちゃなんですが、帰る所が無いので暫くお世話になります』



にっこりと、満面の笑みで言い放たれた言葉に溜息を零す。



そんなこんなで幽霊少女との奇妙な共同生活が始まったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー
拍手ありがとうございます!!
幽霊少女デフォ名:東優雨(あずまゆう)






[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ