僕らの恋愛事情

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「楽しみだね!林間学校」


期末テストも終わって季節は秋。毎日の様にテニス部の勉強会に混ぜてもらったおかげで、今回のテストはなかなかの出来だった。


『そうだね。二日目はキャンプファイアもあるんだっけ』
「泊まるロッジもなんかいい感じだよね」
『うん。ところで、美衣』
「なに?」
『その大きな袋はもしかして…』
「えへへ。お菓子でーす!」
『やっぱり。お菓子は300円までってしおりに書いてあったでしょ』
「知らないもーん」


この高校の凄いとこは全校で林間学校に行くこと。なんでも、泊まるロッジも校長の知り合いの別荘だとか。他校はまったくおらず、学年ごとにやることは違う。


桃「ったく。相変わらず子供っぽいよな、お前は」
「うるさいな。大体なんで桃ちゃんが1年のバスに乗ってるの」
桃「2年の定員オーバーで乗れなかったんだよ」
「桃ちゃん、出席番号最後だもんね」
桃「そうなんだよ。好きで乗ってんじゃねぇっての」
『ふふ。すっかり元通りね』
「うん、もう大丈夫だよ!」


強がりなんかじゃなくて、ほんとに大丈夫だった。これも全部越前くんのおかげだ。彼はすやすやと眠っている。


桃「おい、越前。起きろよ」
越「ふぁ……なんすか?」
桃「もう着くぜ。しかしよくそんな寝れるな」
『乗ってから一回も起きなかったもんね、越前くん』
越「ん。昨夜、遅くまでカルピンと遊んでたから…」
『カルピン?』
越「うちで飼ってる猫」
『へぇ。猫飼ってるんだ』
桃「ありゃ狸だろ」
「え?!越前くん、狸飼ってるの?」
越「…猫だって」


越前くんは呆れ顔で私を見る。なんてゆうか、最近気付いたんだけど。彼は梨香と話すときによく笑う。それから、彼女に向ける眼差しが優しい。


(好きな人と居たら自然にそうなっちゃうんだろうなぁ…)
『美衣、着いたよ』
「あ、うん!今行く」
『素敵なロッジだね』
「うん!テンション上がるね」
越「あんたは常に高いけど」
「あはは。確かにね」
『……』
越「なに?」
『あ、ううん。楽しそうだなって』
越「…そ?」
『うん。越前くんのそんな顔テニス以外で初めて見たな』
越「……」
「二人とも〜!早く早く!」


ロッジの部屋に荷物を置いてまずは昼ごはん。炊事場に行けばキャンプに来たかと思う。


「やっぱりこうゆう時はカレーだね」
『うん。じゃあ私野菜切るね』
「じゃあ火つける牧拾ってくる!」
『気を付けてね』


少し離れた所に森がある。そこで牧を拾う。なんだかサバイバルみたいで楽しくなる。


河「やぁ、美衣ちゃん」
「タカさん。牧拾いですか?」
河「うん。それにしても、随分奥まで来たね」
「え、うそ」
河「1年は確か3年の反対側だから」
「あはは。拾ってたら楽しくなっちゃって」
河「あはは。君らしいよ。帰れるかい?」
「はい。ありがとうございます」
河「足下、気を付けて」


さすが兄弟。優しいとこも心配性なとこも似てる。小走りで炊事場に帰っていると、木の根っこにつまづく。


「った……」


その拍子に足を挫いたみたいだ。だけどこんなとこでしゃがみ込んでるわけにもいかない。足を引きずりながら歩く。


『遅かったじゃない。何かあった?』
「拾うのに夢中で遠くまで行っちゃってたみたい」
『もう。相変わらずなんだから』
「あはは。じゃあ火おこすね」
『うん。お願い』


しゃがみ込むと足に激痛が走る。でもしゃがんでいたおかげでバレてないみたいだ。ほっと胸を撫で下ろした。


「完成〜!」
越「……なにそれ、イカ墨でも入れたわけ?」
「あはは。やだな、越前くんってば」
越「どうやったらそんな黒いカレーに…」
「見た目はあれだけど、美味しいんだから!ね?」
『うん。美衣ったらどうしてか見た目だけ不味そうに出来るみたい』
越「ふーん。逆にすごいじゃん」
「でしょ?」
越「褒めてないから」


ご飯を食べてからは自由時間。梨香と一緒に遊びに行く約束だ。なのに片付けになってから立ってるときでも足が痛む。


(う〜さすがに、やばいかも)
『あ、洗剤切らしちゃてる』
「私貰ってくるよ」
『ありがとう』


痛みが紛れるかと思ったけど逆効果。鈍い痛みが足に広がる。小さいため息をついた時だった。


越「野々村」
「あ、越前くん。どうし、」
越「いいから、座って」
「え……」
越「足、挫いたんだろ?見せて」
「だ、大丈夫だよ!ちょっと痛むだけだから」
越「嘘つき」
「っ……」


どうしてわかってしまうんだろう。私は大人しく座って足を見せる。越前くんにはいつも見透かされてしまう。


越「腫れてる。冷やさないと」
「ごめんね。迷惑かけて」
越「別に。あんたは何でも無理しすぎ」
「…そんなことないよ」
越「辛いくせに無理する方が迷惑」
「……ごめんなさい」
越「辛かったら素直に甘えなよ」
「…うん。ありがと」


テニス部なだけあって応急措置は慣れてるみたいだった。一応先生に見せた方がいいと言われて私は医務室に向かった。


『あ、越前くん。美衣見なかった?洗剤借りに行ってから帰って来ないんだけど…』
越「捻挫してたから医務室行かせた」
『捻挫?ひどいの?』
越「たぶん大丈夫。腫れもひどくなかったし」
『よかった…。越前くんはよく見てるだね、美衣のこと』
越「…別に。たまたまっしょ」
『そうかな?』
越「…洗剤、いる?」
『うん。ありがとう』


医務室は涼しかった。林間学校に来てることを忘れさせる様な空間。数時間もすれば痛くなくなるから安静に、と言われた私はぼーっと窓の外を眺めていた。


(…あ、桃ちゃんだ。ここからは2年が近いんだ)


大好きな桃ちゃんの笑顔。見てるだけで幸せになれた。だけどなんだか何も感じない。不思議な感覚。


(……どうしたんだろ、私)


あんなにも好きだったのに。もう胸の痛みさえもわからなくて。時間が解決した?違う。越前くんが居てくれたから。あの日、あの時、彼が居てくれたから。私は今こんなにも穏やかでいられるんだ。


「あ!洗剤!」


この気持ちの正体を私はまだ 知らない。外でオレンジに染まっていく葉っぱが風に揺れている。














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