青春学園

□不器用な男の恋
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「海堂くん!おはよ」
『……ああ。おはよう』


この目付きのせいか。無口なせいか。もしや性格のせいか。わからないが皆が自分を怖がっているのは知っている。それは別にどうでもいい。だが、たった1人。例外がいる。


「今日も早いね。朝練大変?」
『別に。楽なもんだ』
「海堂くん体力ありそうだもんね!すごいな〜」
『……ふん』


同じクラスの野々村。コイツだけはまったく俺を怖がってない。むしろ気に入られてるように思う。


「あ、そうだ。海堂くんって動物好き?」
『……嫌いじゃねぇ』
「よかった!じゃあ昼休みちょっと付き合って?」
『…なんだと?』
「駄目かな?」
『……わかった』
「ありがと!じゃあ昼休みね」


なんだって好んで俺に近付くのか。好奇心か。怖いもの見たさか。わからないが悪くないと思う自分がいる。


「海堂くん!行こ」
『……飯は?食わねぇ気か』
「違うよ。お弁当も持って行くの」
『……そうか』
「早く早く!」
『おい。あんまり急ぐと転けるぞ』
「大丈夫、大丈夫……きゃあ!」
『……だから言ったろうが』


無駄に元気でよく喋ってよく笑う。それから結構ドジ。いつの間にコイツのことをこんなに知っていたのか。わからないが。


「ここだよ」
『…中庭がどうかしたのか』
「にゃんにゃーん。出ておいで」
『……猫』
「可愛いでしょ?一昨日偶然見つけたの」
『ああ。可愛いな』
「人懐こいよ。抱く?」
『……ああ』


動物は好きだ。だがあいつ等すら俺は怖いらしく。猫はひょいっと逃げていく。いつものことだ。


「あれ、どうしちゃったのかな」
『……俺が怖いんだろ』
「そんな。猫ちゃ〜ん?この人はとっても優しいよ〜出ておいで」
『……野々村、聞いていいか』
「ん?なに?」
『お前は俺が怖くねぇのか?』
「全然。だって海堂くんは優しいもん」
『……なんでそう思う』
「海堂くん、落ちてるゴミを必ず拾って捨てるでしょ。それから教室の花瓶の水も毎日変えてるし」
『……そんなこと当たり前だ』
「でも、他の人は気付きもしない。それを海堂くんは当たり前だって言うの」


不覚だ。こんなにまっすぐ見つめられて。嬉しくなる自分がいる。コイツは他の奴等とは違う。ちゃんと自分を見てくれている。


『……ふん。そうかよ』
「あれ、もしかして照れた?」
『あ?なわけねぇだろうが』
「あはは。冗談だよ」


コイツこんなに可愛かったか。確実に自分の中のなにかが変わり始めていた。


「お弁当食べよっか」
『ああ』
「いただきまーす!」
『いただきます』
「うん。美味しい!」
『……お前、うまそうに食うな』
「だって美味しいもん」
『ふん。そうゆう奴は嫌いじゃねぇ』
「え……」


なんでそれで頬を赤らめるのか。なんで俺まで戸惑うのか。わからないが。悪くない。


『……野々村』
「な、なに?」
『お前、彼氏いねぇのか?』
「い、いないよ。いたら海堂くんとこんなとこに居ないって」
『……それもそうだな』
「……海堂くんはいるの?」
『いや、いねぇ』
「そ、そっか」


なんだか気まずい雰囲気。だが決して居心地が悪いわけではない。むしろ良い。


『……ならねぇか?』
「え?な、なにが?」
『だから……その…彼女に、だ』
「え…………」
『嫌なら無理にとは言わねぇ』
「………………」
『……おい。聞いてんのか?』
「………嘘みたい」
『あ?』
「嬉しい……!!」


急に抱きついてくる。驚きながらもしっかりと抱き留める。想像以上に細く小さい。


「私……ずっと海堂くんのこと…好きだったから」
『そ、そうか』
「うん……」
『……野々村』
「名前で呼んで?」
『……美衣』
「えへへ。なんか泣けてきちゃった」


腕の中の彼女は大きな瞳を潤ませている。なんだかもう、我慢できねぇ。力強く彼女を抱き締めた。


「っ……か、いど……く…」
『お前は名前で呼ばねぇのか』
「………薫くん」
『……ああ』
「私のこと……好き?」
『……………ああ。好きだ』
「嬉しい…」


彼女の細い腕が背中に回される。目付きのせいか。無口なせいか。もしや性格のせいか。わからないが。皆が自分を怖がっているのは知っている。でも、ちゃんと見てくれている奴がいることも、知っている。
















不器用な男の恋
(……ご両親に挨拶しねぇと)
(ええ!?)
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