山吹中学
□初キスは栗とチョコレート
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「はい、仁さん!ハッピーバレンタインです」
『ああ?チョコレートなんざいらねぇ』
「栗入りですよ?」
『……フン。貸せ』
私の手からラッピングされた箱を奪う。みんな彼のことを恐れるけどちゃんと優しいのを私は知ってる。
「あれ?食べないんですか?」
『今腹は減ってねぇ』
「え〜食べてくださいよ!感想楽しみにしてるんです」
『知るか。俺が気の向いた時に食ってやる』
「じゃあ気が向くまでここにいます」
『ちっ。相変わらずしつこいな』
しぶしぶラッピングを外す仁さん。ほら、やっぱり優しい。ラッピングを破かないように丁寧にテープをはずしてる。
「仁さんは優しいですね」
『なにいきなりわけのわからねぇこと言ってやがる』
「みんななんでこの優しさに気付かないんだろ」
『俺の話を無視するとはいい度胸じゃねぇか』
「あ、でもやっぱり気付かないでいいかな」
『ああ?』
「だって仁さんが優しいって知ったらみんなが好きになっちゃいますもん」
『……バカ言ってんじゃねぇ』
あ、ちょっと照れた。それを隠すようにチョコレートにかぶりつく。ハート型なのに見事に割ってくれちゃって。
「どうですか?」
『フン。悪くねぇな』
「おいしいですか」
『不味くはねぇ』
「おいしくないんですか」
『そうは言ってねぇ』
「おいしいって言ってください」
『知るかよ』
「む……」
結構がんばってチョコレートもラッピングもやったのに。おいしいって言ってくれなきゃむくわれない。私は仁さんからチョコレートを取り上げる。
『なんの真似だ』
「おいしいって言ってくれたら返します」
『ちっ。うめぇよ』
「ありがとうございます」
『フン』
「仁さん。大好きです」
『知ってる』
「仁さんは?」
『お前と同じだ』
「あ、ズルいです」
『知るかよ』
あ、笑った。駄目だな。それだけでもう幸せな気分になる。
「……仁さん。好きです。大好きです」
『お前は……何回言やぁ気がすむんだ』
「何回だって言います。大好きですもん」
『フン。お前のそうゆう素直なとこなかなか好きだ』
「え?今、なんて……!」
仁さんに力強く引き寄せられてキスをする。突然のことに驚きながらも幸せな気分があふれる。
『二度も言わねぇ』
「……はーい」
みんなは彼のことを恐れるけど優しいのを私は知ってる。ちゃんと愛してくれてるのを私は知ってる。栗とチョコレートの味が混ざった甘いキスで。
初キスは栗とチョコレート
(お返しはケーキバイキングでいいですよ)
(調子に乗るんじゃねぇ)