山吹中学

□恋が育つ10分間
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俺は地味だとよく言われる。だけどそれはきっと周りが派手なんだと思う。テニス部でも部長なのに千石や亜久津がいるから地味に見えるだけなんだと。


『ちょっと遅くなったな…』


急ぎ足で教室に向かう。朝練が終わってみんなが来はじめるまでの10分。最近の俺はその10分が楽しみで仕方ない。

ガラ。

その理由は、ただ1つ。


「おはよー南。ちょっと遅かったね」
『おはよう。部室の鍵が壊れちゃってさ』
「え、大変だね。でもこの田舎だし問題ないんじゃない?」
『確かにそうかもな』


彼女は毎朝早く学校に来て教室の花に水をやっている。その優しそうな横顔に恋をしたのは1ヶ月前。


「毎日朝練つかれない?」
『3年間やってきたしもう慣れたかな』
「すごいな〜」


みんなが来はじめるまでの10分間。教室には俺と野々村2人だけ。
普段の学校生活になるとなんだか気恥ずかしくて話せなくなる。我ながら情けないと思う。


『野々村だって毎朝早く来てるだろ』
「私は家が近いから。それに南くんと話すの楽しいもん」
『え……』
「みんなが居るとなんか話かけれないから…」


うそだろ。野々村も同じように思ってたなんて。少しほほを赤らめた彼女が可愛くて。


『俺も野々村と話すの楽しいよ』
「ほんと?嬉しい」


ぱっと明るく笑う。その笑顔に鼓動が早まっていく。俺は地味だとよく言われる。それはきっと周りが派手なんだと思う。だけどやっぱり自分に自信はない。情けないけど。


『……あの、さ』
「ん?」
『彼氏とか、いるのか?』
「え……」


でも彼女は俺と話すのが楽しいと言ってくれる。今、彼女の瞳に映るのは紛れもなく俺で。


「いない、よ?」
『そっか……好きな奴は?』
「……いる」


試合のときだってこんなに緊張しない。周りの音がなくなったみたい。自分の鼓動しか聞こえなくなる。


『……好きな奴いるなら迷惑かもしれないけど、俺……野々村のこと好きだ』
「え………」


驚いたような声。そうだよな。急すぎだよな。だけど野々村が可愛くて。
振られたっていい。今、彼女のほほを赤らめているのは紛れもなく俺だから。


「……南くんってよく地味だって言われるじゃない?」
『…うん』
「だけど私は南くんを地味だと思ったことなんてないの」
『え?』
「誰よりも輝いて見えるもん」
『……それって』
「私も好きだよ。南くん」


夢でも見てるのかと思った。だけど抱き寄せた彼女が暖かくて現実だと知った。


『ありがとな、野々村』
「私もありがと、南くん」


クラスメイトの話し声が聞こえてくる。俺たちは慌てて離れる。そしてどちらからともなく見つめ合って、微笑んだ。









恋が育つ10分間
(明日の朝が待ちきれないな)
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