僕らの恋愛事情

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「じゃじゃーん!どう?」
『すごい!こんな才能もあったんだね』


ドレスの完成図を見せる。学芸会まで後2週間とちょっとだ。そろそろ皆もやる気が出てきたようだ。


「でしょでしょ?がんばったんだから」
『うん。すごくいい、ありがとう』
「えへへ。問題はこの通りに作れるかなんだけどね」
『大丈夫よ。裁縫意外と得意じゃない』
「意外に、は余計だよ!」
『ふふ。張り切ってるわね』
「うん!もっちろん!」


台本も出来て今日から本格的に劇の練習が始まった。主役の梨香と越前くんは一緒にいる機会が増えた。


越「シンデレラって最後ハッピーエンドだっけ?」
『そうだよ。王子様と幸せに暮らしてめでたしめでたし』
越「ふーん。ずっと眠ったままなんじゃなかった?」
『それは眠り姫だよ、越前くんったら』
(……よかった。いつもの越前くんだ)


あの切なそうな顔が忘れられない。いったいどれだけ悲しい思いをしてきたのだろう。1人で。


越「…」
(わ!目、合っちゃった!見すぎたかな?)


思わず顔を背ける。衣装係の私は家庭科室で衣装作りに励むことになった。主役の2着を任されるって責任重大だ。


(でも他の人達のほうが大変かも。エキストラ分も作らなきゃだもんね)


図案にあわせて買ってきた布を取り出しながら思う。服なんて作ったことないけれど。とりあえずやるだけやってみよう。


「ふぅ……。ミシンって結構疲れるなぁ」


気がつけばもう授業が終わる時間。急いで片づけを済ませて教室に向かう。丸一日準備になるのは前日だけなのだ。


越「そこの美しいお方、私と踊ってくださいませんか?」
『え……私ですか?』
越「ええ。貴女です」
『私でよければ……喜んで』
(舞踏会のシーンだ。それにしても、2人とも絵になるな…)


中に入るのも忘れて練習を見つめる。2人の手が重なり合う。ズキン、と胸が痛んだ。どうしてこんな切なくなるんだろう。


(あ、チャイム…。入らなきゃ)


チャイムによって中断された練習。なんだかほっとしてる自分がいた。なぜかはわからないけどこれ以上見たくなかった。


『美衣、ドレスどう?』
「まだ全然だよ〜。間に合うといいけど」
越「まさかと思うけど、かぼちゃパンツとか絶対やだから」
「ちぇ〜。やっぱり駄目か。大丈夫!そう言うと思ってた」
越「ん。わかってるじゃん」
「でも見たかったなぁ。かぼちゃパンツ」
越「…あれの何がいいわけ」
「あはは。だっていかにも王子様!ってイメージだから」
『王子様って言えば、一部の人から不二先輩そう呼ばれてるらしいよ』
「あ、らしいね!確かに王子様っぽいもんね〜!」
『うん。いつも笑顔だしね』
「王子様の衣装、不二先輩をイメージして作ったんだよ!」
『そうなの?楽しみだな』
越「……」


越前くんのちょっとむっとした顔に気がつかないまま次の授業が始まる。学芸会までに衣装が完成するといいんだけど。そんな心配をしながら1日が終わる。


「うーん……」


やっぱりどう考えても間に合わない。小さく溜め息をついて私は放課後の家庭科室に向かう。


「よし!がんばろっと!」


せっかく2人が結ばれるんだもん。劇の中だけだけど。越前くんの笑顔が少しでも増えるように。


「ふ〜疲れたぁ。今何時だろ?」


時計を見て驚く。既に外は真っ暗だ。慌てて片づけを済ませて校舎を駆け抜ける。夜の校舎ほど怖いものは無いかもしれない。


(夢中になったら周りが見えなくなるの何とかしなきゃな〜)
桃「あれ、美衣?」
「桃ちゃん!」
桃「こんな時間まで何してたんだ?もう校舎閉まるぜ」
「よかった〜!怖かったよ〜!」
桃「ったく。忘れ物して正解だったな」
「また夢中で作業してたらこんな時間になっちゃって…」
桃「相変わらず放っておけねぇな、お前」
「あはは。駄目だね〜私って」
桃「ばか、守りたくなるってことだよ」
「あ、ありがと…」


恥ずかしくなって俯く。桃ちゃんは時々無意識に恥ずかしいことや期待させるようなことをさらっと言うから困る。


桃「へぇ、ドレスね」
「うん!学芸会で使うんだ〜」
桃「あーそういや去年俺らもやったな、そんなの」
「桃ちゃんは何やったの?」
桃「さぁな。まったく覚えてねぇ」
「も〜なんで桃ちゃんって興味ないことすぐ忘れちゃうかな」
桃「しょうがねぇだろ」
「そんなとこも好きだったけどね」
桃「…だった、か」
「ん?なんか言った?」
桃「いや、なんでもねぇ!」


そういえば桃ちゃんと2人きりで話すのは久しぶりだ。振られてから私から会いに行くこともなくなったし。学年が違うとやっぱり接点は少ないのだ。


桃「お前さ、最近越前と仲いいよな」
「ん?そうだね。同じクラスだし、越前くんにはいろいろと助けられたから」
桃「へぇ?」
「あ、なにその目。別に疑うような関係じゃないんだから」
桃「何も言ってねぇだろ。でも、あいつは少なくともお前を気に入ってるみたいだぜ」
「え、そうなの?」
桃「見りゃわかるだろ」
「わかんないよ。普通じゃない?」
桃「相変わらず自分のことになると鈍いよな〜、お前」
「そう?」
桃「この前も一緒に帰ったんだろ?」
「うん。私、傘なくて入れてくれたの」
桃「運よかったよな〜、もし海堂がマネージャー誘わなきゃお前濡れて帰るとこだったもんな」
「…え?」


言ってる意味がわからなかった。あの日、越前くんは私を待ってたんじゃ。海堂先輩が誘わなかったら、彼と帰れてなかった。それって。


桃「越前も可哀想だよなぁ。せっかくマネージャーを待ってたのによ」
「っ……」


ああ、やっぱりそうなんだ。そうゆうことだったんだ。傘の無い彼女を待ってたけど、彼女が海堂先輩に誘われて彼と帰った。1人になった越前くんのところにちょうど私が来たんだ。それだけだったんだ。


桃「美衣?どうしたんだよ、黙り込んで」
「あ、ううん!なんでもない!」
桃「そうか?疲れてんなら無理せずに休めよ」
「大丈夫!元気だよ」
桃「どうだかな〜。お前、よく無理して学校とか来てただろ」
「あはは。いつの話してるの〜」


そう、大丈夫。ちょっと考えればわかったこと。彼は彼女が好きなんだから。私を待ってたなんて都合のいい解釈。恥ずかしい。


桃「にしても、あいつも一途だよなぁ。俺なら諦めるけどな」
「…うん、そうだね。好きな人と一緒に居る所を毎日のように見るなんて辛すぎるよね」
桃「…おい、どうした?」
「え?なにが?」
桃「お前、今にも泣き出しそうな顔だぜ」
「っ……」


どうして。どうしてこんなにも胸が痛いのか。どうしてこんなにも泣きたくなるのか。越前くんが誰を好きかなんて知ってたはずなのに。


「あは…やだ、ごめっ……」
桃「……美衣、お前…」
「ちが………これは、涙じゃ…」
桃「…泣くなよ」
「も、もちゃ……」


桃ちゃんは優しく私を抱きしめる。その優しさが暖かくて余計に泣けてくる。どうしてこんなにも涙が溢れるのか。


桃「悪ぃ。お前も、辛い思いしてたんだな」
「え……?」
桃「なんだよ、気づいてねぇのか?こんだけ泣くほどなのによ」
「な、に……?」
桃「お前、越前が好きなんだよ」
「…………え?」


桃ちゃんの言葉に頭が真っ白になる。何を言ってるんだろう。越前くんを好き?誰が?私が?


「そ、んなこと……」
桃「よく考えろよ。今なんで泣いてるのか」
「…なんでって」


なんでなの。どうしてこんな悲しいの。どうして笑顔が見たいの。どうして彼が切ないと切なくなるの。どうしてあの2人が一緒にいるのを見ると苦しいの。


「好き……だから…?」
桃「ああ。じゃなきゃこんな風に泣けねぇよな、泣けねぇよ」
「……っそんな、私…」


私が越前くんを好き。ひっかかってた何かが弾けた。全てが1つの気持に結びついた気がした。そっか。私は彼が好きなんだ。


桃「落ち着いたか?」
「うん…。ごめんね、泣いたりして」
桃「ばーか!俺に遠慮なんかするんじゃねぇっての!」
「桃ちゃん…うん!ありがと!」
桃「おうよ!泣きたくなったらまたいつでも相手するぜ!」
「あはは。じゃあその時はまたよろしくね!」


あんなに好きだった桃ちゃん。だけど今はこうして前みたいに笑いあえて。そして私は越前くんを好きになって。


(……まさか、恋だったなんて)


ずっと桃ちゃんしか興味なかったから忘れてた。人を好きになったときの感覚。あのドキドキも悲しみも切なさも。全部、私が彼を好きだから。


(…でも、越前くんは)


気持に気がついたところで彼の好きな人が変わるわけはなく。まさに彼と同じ状況になったわけだ。


(……どんな顔して会えばいいの?)


切なさが付きまとう。あの笑顔が切なそうな顔が。頭をかけめぐって落ち着かない。私の新しい恋は始まったときから終わっていた。

















新しい恋の始まり

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