そのほか

□スローライフ
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「おはよう、白石」


朝独特の眩しいけれどさわやかな日差しに照らされて彼女はほほえむ。女神みたいや、なんて思うのは俺が彼女を好きだから。


『おはようさん。えらい早起きやなぁ』
「早起きって。もう7時だよ?」
『充分や。なんか用事でもあるんか?』
「ないけど、あんまりたくさん寝てるともったいない気がして」
『なるほどなぁ。さすが謙也の友達や』
「あ、あんなに忙しくないよ」
『はは。あいつは一種の病気やからな』


彼女と出会ったのは大学。謙也の友達だと紹介されて一目で恋に落ちた。東京から大阪に越してきた彼女は心細そうに、でも穏やかに笑った。


『今日は3限目からやろ?もっとゆっくりしようで』
「で、でも。ここ白石の家だし落ち着かない」
『なんや、傷つくわ〜。いつかは一緒に暮らそ思ってんのに』
「あ、白石と居るのが嫌ってことじゃなくて」
『わかっとるよ。かわええなぁ』


焦って弁解しようとする姿が可愛くて。ベットから出て彼女を抱き締める。付き合って結構経つのに彼女はそれだけで顔を赤らめる。


『そない急ぐ必要あらへん。あいにく今日は雨や』
「そういえば、今日は1日雨ってさっきニュースでやってた」
『せやろ?雨の日は無理に外に出ることないねん』
「……サボりは駄目だよ」
『ちゃうちゃう。サボりやのうて自宅学習や』
「もう。白石ったら」


ため息をつきながらも笑う彼女。俺の言うことにはなんだかんだ言いながらも付き合ってくれる優しいやつ。


『昨日も遅くまで愛しあっとったからよう寝てへんやろ?』
「そ、それは白石のせいだもん」
『美衣が可愛すぎるねん』
「…もう。調子いいんだから」
『ほな、二度寝しよか。なんならまた愛したってもええで?』
「ね、寝ます」
『それは残念やなぁ』


顔を赤く染めて潤んだ瞳で恨めしそうに俺を見る。その顔も逆効果っていつになったらわかるんかな。


「あ、白石。電話鳴ってるよ」
『ほっとき。無理に出ることないんやから』
「無理にって…。まったく無理じゃないけど」
『ええから、早よ隣に来てや』
「……うん」


腕枕の体制で待てば戸惑いながらも俺に頭を預ける。なんでこんなに可愛いんだろう。困ってしまう。


『かわええなぁ、美衣は』
「……白石は、かっこいいよ」
『ほんま?おおきに。めっさ嬉しい』
「知らないの?大学でもかっこいいって有名だよ」
『知らんなぁ。俺は美衣以外の子には興味ないから』
「っ……。うん、ありがとう」


その控えめなヤキモチさえも愛しく思える。頬を赤らめて笑う彼女をぎゅっと抱き締める。


『好きやで』
「私も、好き」
『ん〜絶頂』
「ふふ。やっぱりちょっとサボるのは気がひけちゃうな」
『真面目やなぁ。ええか?今日を休日やと思うんや』
「休日……」
『せやで。それやったら、なーんも問題あらへんやろ?』
「もう。わかった、休日ね」
『そうや。いい子いい子したるわ』


頭を撫でてやればくすぐったそうにはにかむ彼女。ああ、もうほんまになんなん。天使の生まれ変わりかなんかに見える。


「白石、お腹空かない?」
『ほんなら、俺がなんか作ったる』
「え?白石が?」
『俺の腕をなめたらあかんで』
「ふふ。楽しみだな」


なんちゅうか。幸せってこうゆうことを言うんやろうな。胸のあたりがぽかぽかしてごっつええ感じや。


「甘い匂い。お菓子?」
『ようわかったな。当たりや』
「お菓子なんて可愛い。また新しい白石が知れた」
『自分、そないなかわええこと言うと襲うで?』
「し、白石の変態」
『男なんてみんな変態やねん』


出来上がったそれをテーブルに持っていく。甘い香りに誘われて彼女もベットからこちらに来る。


「すごい。これってパンケーキ?」
『せやで。バナナパンケーキ』
「私、バナナ大好き」
『知っとる。やからこれにしたんや』
「ありがとう。食べていい?」
『もちろんええで』


美味しい、といちいち俺の顔を見て笑う彼女に嬉しくなる。ほんまにこいつ以外はもう無理だと確信しながら。


「白石は食べないの?」
『食べさせてくれるんか?』
「え…そ、それは」
『それぐらいええやん。名前で呼ぶのもそう言って未だに呼んでくれへんし』
「う……」
『な?頼むわ』
「い、一回だけだよ?」
『おおきに』


恥じらいながらフォークで切り分けたパンケーキを俺に差し出す。可愛くていたずらしたくなる。


『無言かいな』
「い、いいの。早く食べて」
『嫌や』
「……あ、あーん」
『せやせや、それがないとな!あーん』


パクっと口にパンケーキを含む。真っ赤になって俯いてる彼女。隣に移動してその肩を抱く。


『俺、めっさ幸せやわ』
「……私もだよ」
『ほんなら、もう一回してくれる?』
「それは嫌」
『照れ屋やなぁ』
「しょ、しょうがないじゃん」
『そんなとこも好きやで』
「……ずるい」


少し拗ねたようにぷんっとそっぽを向く。ああ、駄目や。なんでそないにかわええんや。俺は彼女を抱き抱えベットへ向かう。


「し、白石?」
『すまんな。抱きたくなってもうた』
「ま、まだ朝だよ?!」
『関係あらへん』
「や、ちょ…っく、蔵之助!」
『………今、名前』
「……蔵之助」
『美衣!おおきに。名前呼ばれてこない嬉しいの初めてや』


抱き締めた彼女からは甘い香りがした。さっき食べたバナナパンケーキの香り。俺はきっと世界一幸せや。そう思いながら優しいキスをした。



















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(ほな、続きしよか)
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