氷帝学園

□天然小悪魔ちゃん
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「それって伊達眼鏡なの?」


別にその質問をされたのが初めてなわけじゃない。だけど俺が不覚にも驚いてしまったのは聞いてきた相手が初対面だったから。


『…えーっと、お譲ちゃん。俺と話したことあらへんよな?』
「うん。ないよ」
『せやんなぁ。こないな可愛い子と話とったら忘れるわけないわ』
「ねぇ、伊達なの?」
『……フリーダムやなぁ、自分』


さすがに関西人でもここまでずけずけと自分勝手に話す人は珍しい。しかもここは東京だ。


「ねぇ、どうなの?」
『はいはい。ちゃんと度入っとるで、少しやけどな』
「ふーん。入ってるんだ」
『なんやねん。その残念そうな顔は』
「伊達だったら面白かったのに」
『そらすまんな』


なんで謝らないといけないのかわからないけれど。何とも腑に落ちないという顔のお譲ちゃん。めんどくさそうな子や。


「じゃあその関西弁はわざと?」
『なわけあらへんがな』
「え、まじな関西人なの?」
『当たり前やろ。誰がそんな盛大な嘘つきながら過ごすんや』
「ふーん。つまんないの」
『つまらんって…。お譲ちゃん俺になに求めとんねん』
「え。面白み」
『…即答やな』


そんな真剣な顔でそんなこと言われても困るのだけれど。そもそも何で初対面の子にこんなこを言われているのだろう。


『ほな、期待には応えれそうもないし俺は行くで』
「待ってよ」
『なんや。まだなんかあるんかいな』
「なんでお譲ちゃんって呼ぶの?」
『……自分、遠慮って言葉知らへんやろ』
「それくらい知ってるけど」


小さく溜め息をつく。よくわからないけど気が済むまで付き合うしかなさそうだ。生憎、今日は部活も休みだから。


『別に深い意味はあらへん。癖みたいなもんや』
「癖?変なの」
『失礼なやっちゃな』
「男の子はお坊ちゃんって呼ぶの?」
『なわけあるかいな』
「呼ばないの?面白くない」
『せやから期待には応えれんって言うとるやろ』


こんな子は初めてだ。女の扱いは慣れてると思ったけどまだまだ甘かった。世の中にはこんな変な女もいるいたいだ。


「じゃあ女の子はみんなお譲ちゃんなの?」
『ちゃうで』
「じゃあなんで私はお譲ちゃんなの?」
『自分、名前も言わずに話しとるやん』
「……え、そうだっけ?」
『……ほんまかいな』
「そんな人とよく話してたね」
『誰のせいやっちゅうねん』


天然なのか。ただ抜けているだけなのか。どっちにしろ初めてのタイプだ。少しだけ楽しくなってきた。


「私、美衣」
『美衣ちゃんな。俺の名前は知っとるんか?』
「知ってるよ。しのびあし、でしょ」
『…忍足や』
「あ、そうなの?」
『ボケとるわけじゃなさそうやな…。初めて聞いたで真面目に間違えとるの』
「なにブツブツ言ってるの?」
『気にせんとき。忍足や。よろしゅう』
「うん」


差し出した手。握るわけでもなくただ俺の手をじっと見つめたまま動かない。こんな反応されたのも初めてだ。


「何してるの?」
『握手や、握手。よろしゅうって握手するやろ?』
「普通はしないと思う」
『普通じゃつまらんで。ほら、手貸し』
「あ、ちょ…」


強引に手を取ってぎゅっと握る。思ったより小さかった手に少しだけドキッとする。綺麗な白い手だ。


『自分、手綺麗やなぁ』
「何も得しないよ」
『ええやん。俺は手綺麗な子好きやで』
「…ほんと?」
『ほんま』
「ありがと。嬉しい」
『っ……!』


女はいろんな顔を持つと言うけれど。ここまで違う表情をする子は初めて見た。なんて可愛く笑うのか。不覚にもときめいていまった。


「…いつまで握ってるの?」
『あ、ああ。すまん』
「忍足くんってなんか変態ちっくだね」
『は?なんや、いきなり』
「だって手が綺麗な人が好きなんてなんか変態ちっくだもん」
『なんやそれ。失礼やな』
「え、褒めてるんだよ」
『……ほんまかいな』
「うん」
『わかりにくすぎるっちゅうねん』


ふわふわ。ゆらゆら。なんだか掴めない感じの子だ。ペースを乱されるなんてらしくない。こんなこと初めてだ。


『ところで、結局なんの用やったん?』
「あ、うん。言いたいことがあるの」
『さんざん言った気もするけど…まぁええ。なんや?』
「あのね、私と付き合って?」
『………え?』


予想外すぎる言葉に思わず聞き返す。眼鏡の話をしたときと何も変わらない彼女。なにが起きたのだろう。


「駄目?」
『ちょ、ちょい待ち。付き合ってって……お譲ちゃん、俺のこと好きなんか?』
「うん。好き」
『ほ、ほんまかいな……』


信じられない。これが初対面だし。なにより今までの会話のどこにそんな素振りがあったというのだろう。


「私、嘘なんかつかないよ」
『ちょうねん。信じられんって意味や』
「どうして?」
『そら自分、そんな素振り一回もあらへんかったから』
「……話しかけたじゃん」
『え?』
「男の子に話しかけるのなんて、初めてだもん……」


少しだけ頬を赤く染めてそう言う彼女。あかん。なんやそれ。めっさ可愛い。心臓が思いっきり反応する。


『あ〜あかん。頭ごっちゃや』
「ごめん。迷惑だった?」
『まさか。めっさ嬉しいで』
「…ほんと?」
『もちろんや。ほら、わかるやろ?』
「……心臓、早い」
『いろいろ不思議やけど、もうええわ。こないドキドキしとるんやからなぁ』
「わ!お、忍足くん?」


ぎゅっと小さな体を抱きしめる。とても好きな人に対する態度とは思えないけれど。これが初対面だけれど。そんなのもうどうでもいい。


『付き合お、美衣』
「え、いいの?」
『なんや。付き合いたくないん?』
「だってまさかいいとは思わなくて」
『そらそうやんなぁ。俺も驚いとる』
「んー。まぁいっか。付き合ってくれるんだもんね」
『…ええんか?お譲ちゃんのこと好きでもなんでもないかもしれへんで?』
「大丈夫。忍足くんはそんな人じゃないってわかったから」
『っ……ほんま、敵わんなぁ』


笑顔1つでこんなにも愛しくなる。ただ変わった子だとしか思ってなかったのに。いつの間にかこんなにも惹かれていた。


『小悪魔やな、自分』
「え?人間だけど」
『……あほ。物の例えや』




























天然小悪魔ちゃん
(なぁ、俺のどこが好きなん?)
(なんか怪しげで変態ちっくなとこ)
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