恋する乙女奮闘中!

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向「クソクソ!なんで宍戸ばっかり!」
忍「いや〜凄かったなぁ。あんな公衆の面前で告白されるなんて羨ましいわ」


八つ当たりしてくる岳人。ニヤニヤしながら見てくる忍足。どっちもすげぇうざい。さっさと着替えを済ませる。


芥「なになに?宍戸に何かあったの〜?」
跡「ああ。ジローは遅刻してきたから見てねぇのか」
忍「ロマンチックやったで〜。朝から。なぁ、宍戸?」
宍「うっせぇな!俺は先に行くぞ!!」
忍「照れんでもええのに。なぁ?」
跡「ふん。あいつはシャイだからな」
芥「ねぇねぇ〜何があったの〜?」


ラケットを掴んで誰よりも早く部室を出る。今朝のあの騒動?は何人かの生徒に目撃されていて。おかげでこの状態だ。


宍「ったく。冗談じゃねぇ」
鳳「まぁまぁ、宍戸さん。みんなドラマみたいで素敵だったって言ってましたよ」
宍「長太郎。そうゆう問題じゃねぇっての」
鳳「そうですよね。すみません」
宍「…あいつは、平気そうだったか?」
鳳「中下さんですか?はい。いつも通りでしたよ」
宍「そうか。ならいい」
鳳「………」
宍「…んだよ」
鳳「いいえ。解決したんですね。おめでとうございます」
宍「よ、余計なお世話だっての!さっさと着替えて来い!!」
鳳「はは。わかりました」


部室に向かう長太郎の姿を見ながらため息をこぼす。解決したのかは微妙だけど。あんなに怒られちゃもう何も言えない。

確かにせっかく想ってくれてる相手に諦めろ、なんていう方がよっぽど無神経だし。失礼だ。それに、あんな風に泣かれても困る。


「だからね、もう好きにしろって言ってくれたんだ!」
『…そ、それって喜んでいいの?』
「もちろん!これでもう遠慮なんてしなくて良くなったんだもん!」
『今まで遠慮してたの?』
「んー、いや、別に」
『ふふ。もう、真菜ってば』
「あはは。いいの、いいの!ポジティブシンキングだよ!」


でも、あんな風に怒鳴って泣き出したのは我ながらビックリだったな。確かに悲しかったけどまさかそこまでとは。

でも、それだけ先輩のこと好きってことだよね。


「とゆうわけで!お昼一緒に食べましょう!」
宍「いや、どうゆうわけだよ。さっぱり話し見えねぇっての」
「細かいことは気にしないでください!お弁当ですか?」
宍「そうだけど…一緒には食わねぇぞ」
「ええ!なんでですか?!」
宍「女と2人で飯なんてんな恥ずかしい事誰がするかっ!」
「わぁ!宍戸先輩ってシャイなんですね〜!」
宍「〜っ放っとけ!とにかく一緒には食わねぇからな!!」


勢いよく窓を閉められる。ちぇ。せっかく3年生の教室まで来たのに。結構勇気いるんだからね。1人でこんな所来るの。


芥「あれ〜。君、2年生?」
「あ、はい」
芥「どうしたの?迷子〜?」
「いいえ。宍戸先輩をお誘いに来たけど断られたので帰ろうとしてるとこです」
芥「あはは。詳しい説明ありがと。…ん?宍戸?」
「はい」
芥「君、もしかして中下さん?」
「そうですけど」
芥「君かぁ〜!今朝、宍戸にキレて告白したって子!」

(わぁ。そんな風に広まっちゃってるんだ。まぁいいけど)


ぱぁっと嬉しそうに笑った男の人。知ってる。確か芥川先輩だ。いつも寝てるから起きてるとこ見れたらいい事あるっていう。


「やった。これでいい事あるかも」
芥「え?なんで?」
「芥川先輩が起きてるの見たらいい事あるって噂なんです」
芥「え、マジで?!あはは!俺すげぇ〜」
「ラッキーです。話しかけてくれてありがとうございました」
芥「いえいえ。ん〜じゃあ早速いい事してあげる」
「え?」
芥「おいで」


そう言って芥川先輩は手招きする。言われるままについて行く。着いた所は屋上。ドアを開けると眩しさに少し目が眩んだ。


芥「お待たせ〜」
宍「遅ぇぞ、ジロー。どこまでジュース買いに行って…」
「わぁ!宍戸先輩だ〜!!」
宍「げ?!な、なんでコイツが居るんだよ?!」
芥「いや〜さっき偶然会っちゃってさぁ。宍戸とご飯食べたがってたから」
宍「よ、余計なことをっ…!」
「わーい!芥川先輩が一緒なら2人きりじゃないですもんね!」
芥「あはは。宍戸らしい断り方だね〜」
宍「う、うるせぇ!大体、お前いつも食ってる友達とかいんだろ?!そいつが可哀想だろうが!」
「あー…それはそうですね」
宍「だ、だろ?!だからさっさと自分の教室に…」
芥「その子も呼べばいいじゃん。人数多い方が楽しいC〜」
「なるほど!じゃあ呼んで来ます!」
宍「は?!ちょっ待っ…!」


止める間もなく走って行った女。がっくりと肩を落とす俺を楽しそうに見ているジロー。睨んでもニコニコしている。


宍「ったく…。どうゆうつもりだよ」
芥「だってあんなに一生懸命なんだもん。手伝ってあげたくなっちゃって」
宍「はぁ…。勘弁しろっての」
芥「どうして?あの子のこと嫌いじゃないんでしょ?じゃあいいじゃん」
宍「よくねぇの。お前にはわからないだろうけどよ」
芥「…ふーん。でも、ちょっとは優しくしてあげなよ?」
宍「大丈夫だって。あいつはいくら冷たくしても気にしねぇから」
芥「宍戸、それ本気で言ってる?」
宍「は?」


珍しく真剣な顔してるもんだから。驚いて何も言えなかった。そんなことしてる間に女は友達を連れて戻ってきた。


「お待たせしました〜!」
『ごめんなさい、私まで。お邪魔します』
芥「…いいのいいの。気にしないで〜」


一瞬、ジローの顔が驚いていたように見えたのは気のせいか。だけどそんな事はすぐに忘れた。コイツの所為で。


「宍戸先輩、私の卵焼き食べますか?」
宍「いらねぇ」
「じゃあタコさんウィンナーでもいいですよ」
宍「いらねぇ」
「む〜。じゃあミートボールですか」
宍「いらねぇっての」
「わかりました!じゃあこの海老シュウマイでいいですよ!持ってけドロボー!」
宍「いらねぇって言ってんだろ!バカかお前は!!」
「え〜食べてくださいよ。美味しいですよ?」
宍「やなこった。大体、なんだよ。さっきから聞いてりゃそのガキみてぇなおかずは」
「ガキとは失礼な。丹精込めて作ったのに!」
宍「へぇ。それ、お前が作ったのか?」
「いいえ。お母さんですよ」
宍「このバカ!」
「え〜ひどい!!」
芥「あはは。仲いいな〜」
『ふふ。本当ですね〜』
芥「なんかごめんね?急にこんなことになっちゃって」
『いいえ。私こそ、急にお邪魔しちゃって』
芥「全然いいよ〜。可愛い子ならいつでも大歓迎だって」
『ふふ。ありがとうございます』


ずっと見てたのに。話したいと思ってたのに。いざ目の前にすると全然上手く出来ない。変に意識しないようにするほど、気になってしまう。


『あれ。芥川先輩?』
芥「…す〜」
「ありゃりゃ。寝ちゃったの?」
『うん。そうみたい』
宍「げ、マジかよ。なんで今日に限って寝やがった」
「芥川先輩って本当に何処でも寝るんですね〜」
宍「あーまぁな。飯の途中に寝るなんて珍しいけど…なんか緊張するような事でもあったか?」
『いいえ。特になかったと思いますけど…』
「緊張すると寝ちゃうんですか?」
宍「みてぇだな。緊張しすぎると寝ちまうらしい」
「え〜!可愛い〜!!」
『ふふ。本当だね』
「起こしたらいけないし、静かにしましょうね。宍戸先輩」
宍「誰の所為だと思ってんだよ」


楽しい時間っていうのはどうしても短く感じるもので。あっという間に昼休みは終わってしまった。


「今日は凄く楽しかったです!ありがとうございました!」
宍「あー、おう。まぁ礼ならジローに言えよ」
「あ、そうですね。ありがとうございました」
宍「拝めとは言ってねぇよ…」
「でも、やっぱり宍戸先輩もありがとうございました!なんだかんだ言って一緒に食べてくれて嬉しかったです」
宍「お、おう。…どういたしまして」
「えへへ。それじゃあ、また!」


本当に嬉しそうに笑う奴だ。スキップしながら帰って行く女の後姿を見ながら思った。予鈴が鳴る。


宍「っと、やべ。起きろ、ジロー!」
芥「ん〜…?あれぇ、宍戸?…あのねぇ、俺、今すげぇいい夢見たんだぁ」
宍「そりゃよかったな。こっちはお前が寝たおかげで2人の相手大変だったぜ」
芥「……へ?2人?」
宍「寝ぼけてんのか?お前が中下連れて来たんだろうが」
芥「え?あ、そっか……。あれ、じゃあ……あれも現実?」
宍「は?おいおい、大丈夫かよ。ちゃんと起きてるか?」
芥「う、うん。大丈夫。あはは。ちょっと寝ぼけてたみたい。ごめんね〜」
宍「ったく。しっかりしろよ」


最悪だ。確かに緊張してたけど。またとないチャンスだったのに。よりにもよって寝てしまうなんて。小さくため息をつく。


「は〜。今日は幸せだったなぁ」
『真菜。クリーム、垂れてる垂れてる』
「わぁ!あはは。幸せボケしちゃってた」
『ふふ。よかったね。けど、このクッキーも先輩にあげるんでしょ?頑張らなきゃ』
「そうだね!がんばろ〜」


午後からの調理自習は好き。なぜなら時間が早く過ぎるから。授業が終わったら部活前の先輩を待ち伏せしよう。


(あ、終わったみたい!宍戸先輩、貰ってくれるかな〜)


料理は正直苦手だけど。頑張って作ったし不味くはないはす。…たぶん。教室からゾロゾロと人が出てくる。


「宍戸先輩!」
宍「げ。また出た」
「何度でも出ますよ〜」
宍「はいはい。今度は何だよ?」
「はい!これ、調理自習で作ったんです。食べてください!」
宍「…いらねぇ」
「あ、ちょっと!なんですか、その目!確かに見た目はちょっとあれですけどきっと美味しいですって!」
宍「ほんとか?」
「……たぶん?」
宍「絶対いらねぇ!なんだその疑問形!」
「え〜!貰ってくださいよ〜。頑張ったのに〜!」
宍「あいにく俺は甘いもん嫌いなんだよ!じゃあな!」
「あ、先輩〜!」


さっさと行ってしまう宍戸先輩。ため息をついて壁にもたれかかる。やっぱり貰ってくれなかったか。


「頑張ったんだけどなぁ……」
芥「あれぇ。中下さんだ」
「芥川先輩!今日は2回も見れちゃった!」
芥「あはは。俺ってばすっかり有名人だな〜。それで、こんな所でどうしたの?宍戸ならもう行っちゃったよ?」
「はい。知ってます。またもや断られて帰るとこです」
芥「そうなの?それは残念だったね」
「しょうがないですよ。私の片思いだし」
芥「…それ渡したかったの?」
「あ、はい。さっき調理実習で作ったんです」
芥「へぇ〜。なんてゆうか……個性的なクッキーだね」
「あはは。いいですよ、普通に不味そうって言って」
芥「ご、ごめんね?」
「いえいえ!優しいですね、芥川先輩は」
芥「天使だからね〜」
「あはは。本当そう見えます」
芥「…俺が渡しといてあげようか?宍戸、シャイだから場所が悪かったのかもしれないし」
「いえ!いいんです。無理に押し付けたくないし…渡すなら、ちゃんと自分で渡したいから」
芥「…中下さん」
「それじゃあ、私行きますね!部活頑張ってください!」


なんでだろう。本当に分かりたい子の気持ちなんてさっぱりなのに。他の子の気持ちは痛いほどわかるんだ。あの子も俺も、片思いだからかな。


宍「おい、長太郎。なんか今日機嫌いいな。いい事でもあったのか?」
鳳「え?いえ、何もないですけど…」
忍「さては調理実習で何か貰うたな?」
向「クソクソ!侑士の奴!自分がいっぱい貰ったからって!」
鳳「さすが忍足さんですね。その大きな紙袋は全部そうですか?」
忍「せやで。食べるんも一苦労や。困ったなぁ」
宍「全然困ったように見えねぇっての」
跡「おい、お前等。んなくだらねぇこと話してねぇでさっさとコートに行きやがれ」
忍「なんや、跡部。まさか貰えんかったんか?」
跡「あーん?俺様に限ってんなことあるわけねぇだろ。受け取らなかったんだよ、あえてな」
向「クソクソ!なんだよこいつ等!!」
鳳「ま、まぁまぁ向日先輩。コート行きましょう」
宍「なぁ、跡部。お前なんでいつも受け取らねぇんだ?」
跡「俺の舌は上等なものしかうけつけねぇんだよ。お前と違ってな」
宍「あーはいはい。そうですか」
跡「お前こそ、何で受け取らなかった?」
宍「な?!み、見てたのかよ!」
跡「たまたまだ。損するわけでもねぇ、貰えばいいだろ」
宍「…貰えねぇよ」
跡「…まぁいい。人の恋愛なんざ興味ねぇ。お前等もさっさと来いよ」


あんな風にまた泣かれるのも困るけど。やっぱり無駄に期待させるようなことは出来ない。好きにしろって言ったのは俺だけど。


芥「ねぇ、宍戸。もっと簡単に考えなよ」
宍「どわ!じ、ジロー!まだ居たのか」
芥「宍戸のことだから、ちゃんと理由があるんだろうけど……。冷たくされて悲しくならない人なんていないよ?」
宍「な、なんだよ急に……」
芥「中下さんだって、そうだと思うよ」
宍「!」
芥「冷たくされても気にしないって、それ本人に聞いたの?あの子がそう言ったの?」
宍「そうじゃねぇけど……」
芥「宍戸はわかってないよ。好きな人に何かをあげる時、どれだけ勇気がいると思う?」
宍「……それは」
芥「…なーんて、俺が偉そうに言えることじゃないんだけどさ」
宍「ジロー…」
芥「先行ってるね〜」


聞いたわけじゃない。あいつが言ったわけでもない。でも、いつも。冷たくしたって笑ってて。懲りずにまた来るから。

あいつは俺がなんで冷たくしてるのかわかってるから。大丈夫だって。勝手に、思ってただけ。


鳳「宍戸さん!今日は中止だそうです!」
宍「は?なんでだよ」
鳳「なんでって…。聞こえません?この雨音」


言われて窓の外を見てみれば。大粒の雨が降っていた。まるで、何か訴えかけるように。
























レイニーレイニー

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