女の子ですけど。

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「お疲れ様でした」
大「ああ。お疲れ様」


ああ。一刻も早く楽な服に着替えて化粧を落としてビールが飲みたい。夏は嫌い。暑くていつも以上にダルイから。


(なんなの、この暑さ。温暖化の所為?ふざけんじゃないっての)

不「やぁ、野々村さん。お疲れ様」
「…お疲れ様です」
不「あれ。どうかした?元気ないみたいだけど」
「いえ。ちょっと暑さに参ってるだけですから」
不「それは大変だ。送ろうか?」
「だ、大丈夫です。家近いので。失礼します!」


何か言われる前にさっさと会社から離れる。送ってもらうなんて冗談じゃない。そんな事されたらお礼にお茶でも、とか言わなきゃいけない気がするから。

至福の1人の時間を減らすなんてあり得ない。


(そうだ!アイス買って帰ろ〜!)


コンビニへ入る。涼しい空気が気持ちよくて思わず口元が緩む。さすが夏だ。アイスコーナーはとても品揃えが豊富。


(やっぱソーダバーだよね!3本くらい買っとこう)


レジへ並んで少しだけ周りを見渡す。やっぱり居ないか。少し残念。袋を受け取って外へ出るとその暑さにまた機嫌が悪くなる。


(……最近、会えないなぁ)


彼の家で徹夜でゲームをして以来。越前くんにはコンビニでも会っていない。だから何ってことはないけど。


「は〜やっと着いたぁ!」


家に入るなり服を脱ぎ捨てていつもの格好になる。化粧もすぐに落として前髪をゴムでとめる。クーラーを入れてやっと座る。


「あーもー。毎日暑すぎでしょうよ」


買ってきたばかりのアイスを食べながら文句を言う。もうすっかりあのゲームもクリアして私は暇だった。


(いや、やる事はいっぱいあるんだけど……やる気が起きないんだよね。やっぱ夏だから?)


朝起きて、会社へ行って、コンビニに寄って家へ帰る。毎日同じことの繰り返し。それは今までもそうだった筈なのに。


(なんか……こんなにつまらなかったっけ?)


ソーダバーをかじりながら思う。私の生活自体は別にそんなに変わってないのに。どうして最近はこんなにもつまらないのか。


(…コンビニで立ち読みでもしようかなぁ)


変なの。今までいくら暇でも外へ出たりなんてしなかったのに。家に居るのが1番楽で好きだったのに。いや、それは今も変わってないはずだけど。


(………うーん。面白くない)


元々、本とか雑誌とか読まないから。立ち読みなんて正直時間を潰すためだけの行為。私は何がしたいんだろう。


(……帰ろ)


溜め息をついて雑誌を戻してコンビニを出ようとしたその時。ドアが開いて越前くんが入ってきた。


(あ、うそ!会えた!!)


その姿を見つけて思わず笑う。嬉しい。久しぶりに会えた。話しかけようとしてはっとする。


(私……なんでこんなに喜んでるの?)

越「あ、野々村」
「あ…え、越前くん。久しぶり」
越「ん。久しぶり」


どうしよう。何これ。上手く顔が見れない。会えて嬉しいのに。私、緊張してるの?何で?


越「今日も何か切らしたわけ?」
「あ、ううん。暇だからちょっと立ち読みでもしようかなって…」
越「へぇ。暇なんだ」
「う、うん。ゲームもクリアしちゃったし……」


やだ。なんかこれじゃ相手してほしいみたいだ。でも、そうみたい。私はずっと越前くんに会いたかったんだ。


(会うまで気づかないなんて……なにそれ)

越「じゃあ家来る?今からご飯作るけど」
「い、行く!」
越「よっぽど飢えてたんだね」
「ち、違うよ。失礼な」
越「だってちょっと痩せただろ」
「え、そうかな。確かに最近暑くてあんま食欲ないけど……」
越「ふーん。暑いの駄目なんだ?」
「すっごい苦手。夏とか大嫌い」
越「へぇ。らしいね」
「…それ喜んでいいの?」
越「さぁ?」


久しぶりの彼。声も、背も、肌の色も。何も変わっていないのに。どうしてこんなにも胸が締め付けられるんだろう。


(……初恋の少女かっての)


さすがの私でも。この感情が何かなんて知ってる。今までまったく恋愛をしてこなかったわけじゃない。(大体1ヶ月未満で終わったけど)


(あー、そっか。私……越前くんのこと好きなのかぁ)


そう自覚したら。一気に周りの景色が明るくなったみたいな錯角に陥る。風も、木も、雑草も。全てが輝きだす。


越「何ボーっとしてるの?そんなとこに突っ立ってたら日射病になるよ」
「…うん。今行く」
越「顔、赤いけど。暑い?」
「平気。これは暑さの所為じゃないから」
越「ふーん」


どうゆう意味かわかってないだろうな。でもいい。今は気がつけただけでいい。変な空気にはしたくないし。


「お邪魔します」
越「クーラーいれる?」
「ええ。是非」
越「了解。適当に座ってて」
「うん」


クーラーと同時にテレビもつけてくれたから。私はテレビの前に座ってぼんやり画面を眺める。


(今更だけど、越前くんって彼女いるのかな?)


いや、居ないはず。居たらこんな風に家に呼んだりしないよね。それとも私は女として認識されてないとか?


(…どうしよ。あり得すぎて笑えない)

越「野々村。出来たってば」
「え?あ、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
越「みたいだね。あんた本当に暑いの弱いんだ」
「そうなの。暑いとなーんもやる気起きなくって…」
越「確かに。夏の厨房とか地獄だから」
「あー暑そう!嫌にならない?」
越「それはない。料理、好きだし」
「そっか。いいなぁ、そうゆうの」
越「あんたは何かないの?好きなこと」
「ん〜好きなことかぁ。…ないかも」
越「…らしいね」
「あ、ちょっと。今のはバカにしたでしょ」
越「バレた?」
「もう。別にいいの。私は今のままでも幸せだもん」
越「いいんじゃない?それがあんたらしくて」


そう言って笑う彼。ああ、好きだな。なんて柄にもなく思っちゃったりする。触れたいなぁ。


越「食べないの?」
「あ、食べる食べる。いただきます!」
越「ん。どーぞ」
「冷やし中華か〜。いいチョイスだね」
越「まぁね」
「ん!美味しい!さっすが越前くんだ」
越「食べれそう?」
「もちろん!何杯でもいけそう!」
越「そう。なら良かった」
「…もしかして、心配してくれた?」
越「悪い?」
「…ううん。嬉しい。ありがとう」


少し照れ臭そうに顔を背けるその仕草。可愛いところもあるんだな。1回好きだと気づいてしまえば。どんどんハマってしまう。


(熱しやすく冷めやすいってね…)

越「なに?人の顔じっと見て」
「ううん。越前くんってモテるでしょ」
越「は?なに急に」
「だってカッコイイし」
越「…へぇ」
「わ、なにそれ。俺はそんな事には興味ないですみたいな」
越「ないよ。好きでもない子にモテても意味ないっしょ」
「…なんか、ちょっと感動。最近の若い子も捨てたもんじゃないね!」
越「…おばさんくさ」
「なんですって?」


そういえば越前くんは年下だったっけ。やっぱり年上の女なんて嫌かな。なんて考えてもしょうがないけど。


「ふう。ご馳走様!今日も相変わらず美味しかったです」
越「そう」
「なんか毎回ごめんね?タダで食べさせてもらっちゃって…」
越「別に。ついでだし」
「優しいんだね、越前くんは」
越「普通でしょ。煙草、吸う?」
「うん。いい?」
越「いいよ」


窓を開けて煙草に火をつける。でも、この姿を知られちゃってる時点でこの恋は終わりだよね。

いつも家での私を知っては振られるの繰り返しだったけど。始まる前から終わってるってのはさすがに初めてだ。


(きっと、女として見てないよね。こんな格好で煙草吸ってる奴なんて……)


それなら。何も言わずにこのままの関係でいい。私ももう大人だし。それくらい割り切れる。


(これ吸い終わったら帰ろう)

越「ねぇ」
「ん?」
越「俺にも一本ちょうだい」
「いいけど…吸えるの?」
越「子ども扱いしないでよね」
「そんなつもりじゃ…」
越「年下って言っても1歳しか違わないから」
「…うん。そうだね。どうぞ」
越「どーも」


煙草の箱を越前くんに差し出す。そこから一本取り出す彼の綺麗な指に思わず見惚れる。


越「ライター貸して」
「あ、ごめん。はい」
越「ん」


渡すときに少しだけ触れた手。ドキッと鼓動が反応する。あんなちょっと触れただけなのに。恋なんて久しぶりだもんな。


越「…なんか、甘い?」
「うん。バニラの香り」
越「へぇ。変なとこで女らしいんだ」
「よ、余計なお世話です」
越「冗談」


ふっと笑ったその横顔が大人びて見えたのは。煙草の所為だろうか。触れたくなってしまう衝動を煙草と一緒にもみ消した。


「さて、と。そろそろ帰ろうかな」
越「帰るんだ」
「うん。よかったらまた誘ってね。ちゃんとお店にも行くから」
越「ん。わかった」
「じゃあね」


閉まるドアを眺めて。小さく溜め息をつく。まだ火のついている煙草をもみ消して。彼女の吸殻を手に取る。


越「……不味すぎ」


少し噛んだ跡がある。彼女の癖だろう。煙草を加えている唇が容易に思い出せる。きっとずっと見ていたことなんて気づいてないのだろう。


(あ〜もう。なんであんなにカッコイイんだろ……)


欲求を抑えるこっちの身にもなってほしい。なんて。かなり勝手な話だ。しかも、こうゆうのって普通男が思うハズ。


(どうせ私は女じゃありませんよーだ)


1人、心の中で悪態づく。こんっと小石を蹴れば転がって溝へと落ちていく。寂しくなって煙草に火をつける。


(…越前くん、煙草吸えたんだな。意外だ)


目を閉じればすぐに思い出せる。煙草を持つ綺麗な指も。加えてる唇も。吐き出す煙と一緒に伏せられた睫毛も。


(好きだなぁ……)


思わずふふっと笑う。出来ればちゃんとした格好のときに出会いたかった。でも、そうしたらきっと私は恋に落ちてないだろう。


(あれか。神様のイタズラってやつ!)


なんて考えてると家に着く。誰も居ないのにただいまって言ってしまうのは癖みたいなもの。


「はぁ…。なんか疲れたな〜」


どさっとベットに倒れこむ。本当はもっと一緒に居たかった。この前みたいに。何もしなくていいから。ただ、一緒に。


「…って、私は乙女か!いや、乙女なんだけど」


虚しくなって溜め息をつく。今のままで大丈夫だって。割り切れるって思ったけど。結構、キツイかも。


(あ〜もう。いつの間にこんな好きになっちゃったの?)


なんて。そんな事分かるわけもなくて。いつの間にか私は眠っていた。目を覚ましたらもう会社へ行く時間。


「…最悪!とりあえず、遅刻するって電話しなきゃ」


起き上がってベットから出ようとした瞬間。急に視界が揺れて床に倒れこむ。やだ、なにこれ。体が重い。


(で、電話…しなきゃ……)


そう思うのに体が思うように動かない。ああ、今日もすごい暑い。本当嫌になる。このまま寝てしまいたい。

そこまで思って、私は意識を手放した。
























それが恋だと気づいたら

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