恋する乙女奮闘中!

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「宍戸先輩!お久しぶりです!元気でしか?!焼けました?背伸びました?かっこよくなりました?!」
宍「とりあえず、黙れ」


頭にチョップを受けながら言われる。そうです。今日は待ちに待ったバーベキューの日なのです。


「ひどい!せっかく久しぶりに会えたのに!この仕打ちっ鬼ですか!」
宍「このクソ暑いのに元気な奴だぜ」
「もちろんです!なんたって宍戸先輩に会えるんですもん!」
宍「あーはいはい。行くぞ」
「ええ、そんな!スルーですか!!」
芥「あはは。相変わらずだね、中下さん」
「芥川先輩!こんにちは〜」
芥「こんにちは〜。ごめんね、宍戸と2人じゃなくて」
「いえいえ!こちらこそお邪魔してすみません」
芥「全然おっけ〜。結局、俺と宍戸と長太郎の3人になっちゃったし助かるよ」



夏休みが始まってもう2週間。先輩に会いたくて会いたくてしょうがなかった。だから3日前。今日の事でメールが来た時は思わず叫んだ。


『でも、私までよかったんですか?』
芥「もっちろん!こうゆうのは人数多いほうが楽しいでしょ」
『ふふ。ありがとうございます』
芥「いえいえ〜。やっぱり女の子がいるっていいね、宍戸!」
宍「そうか?」
芥「そうだよ〜。華があるじゃん」
「さっすが芥川先輩!わかってますね〜」
『も〜。普通自分で言っちゃう?』
「私じゃないって。美咲だよ!まさに砂漠の中のオアシス!!」
『は、恥ずかしいってば〜』


テニス部の人が殆ど行けなくなったから友達も呼べって言ってくれた。デートっぽくはないけど全然構わない。休みに先輩と過ごせるんだもん。


「私服もかっこいいですね〜!惚れちゃいます」
宍「お前、1回黙っとけ」
「ええ、そんな!鬼畜です!」
宍「テンション高すぎだろ」
「そりゃテンションもあがりますよ!だって宍戸先輩と過ごせるんですもん!」
宍「めでたい奴」
「はい!超ハッピーです!」
宍「そうかよ。電車の中では静かにしとけよな」
「はーい!」


4人で電車に乗って3つ先の駅へ向かう。そこの駅に着くと鳳くんが笑顔で手を振っていた。


鳳「みなさん。こっちです」
宍「おう。長太郎。待たせて悪ぃな」
鳳「いえいえ。大丈夫です」
「鳳くん、おひさ〜!」
鳳「うん。久しぶりだね」
『ごめんね。お言葉に甘えてついてきちゃって』
鳳「全然いいよ。気にしないで」
芥「じゃあ行こっか〜」
「おー!!」


ルンルンで向かったのは徒歩10分でつく浜辺。夏に海で好きな人とバーベキューなんて。素晴らしき青春!


鳳「じゃあ俺達は火をおこすから、材料の準備頼めるかな」
「がってん承知!」
『まかせて〜』


持ってきたお肉や野菜やおにぎりなんかをテーブルに広げる。慣れない手つきでそれらを食べやすい大きさにする。


『あ、真菜!そんな手の添え方じゃ危ないよ〜!切るのは私がやるから』
「ふえ?そう?」
宍「…大丈夫かよ、あいつ」
芥「あはは。期待を裏切らないね〜」


危なっかしい包丁さばき。友達が心配になるのも頷ける。しぶしぶ女は焼き鳥用の肉に棒を指そうとしている。


宍「…あ〜っこら!そんな事持ってたら自分の手まで指すっての!!」
「へ?わ、私ですか?」
宍「お前以外に誰がいんだよ!ったく、ほんと危なっかしいぜ」
「う…。だ、大丈夫ですよ。こんなの、刺さってもそんなに痛くないですもん!」
宍「そうゆう問題じゃねぇっての。ほら、貸せよ」
「あう…」


しぶしぶ棒を差し出す女。まるで叱られた子どものような表情。ほんと、見てて飽きない奴。


芥「宍戸ってばすっかりお世話係だね〜」
鳳「はは。そうですね」
『とりあえず準備出来ましたよ〜』
芥「よーし!じゃあさっそく焼こう!」
鳳「はい。えっと、箸は…」
『はい、どーぞ』
鳳「あ、ありがとう。慣れてるね。よく料理するの?」
『ん〜家で手伝うくらいかなぁ』
鳳「へぇ。凄いな」
『そんなことないよ〜』
宍「ほら、お前もあの友達少しは見習え」
「宍戸先輩!人には得意、不得意があるんです!」
宍「じゃあお前は何が得意なんだよ?」
「…食べること?」
宍「よし、お前肉抜きな」
「ええ!そんな〜!!」


笑い声が響く。きっと、今この瞬間に切なさを感じてるのなんて俺だけなんだろうな。


鳳「あれ。炭無くなっちゃいましたね」
宍「マジかよ。あんなにあったのにか?」
芥「今日、結構風あるからいっぱい使っちゃったC〜」
『でも、もう結構食べちゃいましたし大丈夫じゃないですか?』
「えー!デザートは!?」
宍「はぁ?デザートだぁ?」
「はい!」
鳳「そうゆうのはしたことないな」
芥「俺も〜。バーベキューでデザートなんてあるっけ?」
「えへへ。私、持ってきてるんです!じゃじゃん!!」


自信満々に鞄から出てきたのはマシュマロ。みんなが呆然とその白い物体を見つめている。


「焼きマシュマロです!美味しいですよ〜!」
宍「…俺はいい」
鳳「僕もちょっと…」
『私もマシュマロはいいや〜』
「ええ!ひどい!みんなが喜ぶと思って持って来たのにっ」
芥「すっげ〜!俺超食いたい!焼きマシュマロ!」
「あ、芥川先輩…!神に見えます〜!」
芥「早く焼こ!!」
「はい!」
鳳「なんか、似てますよね。あの2人って」
宍「おお。そうだな」
『ふふ。和みますね〜』
鳳「じゃあ俺、燃そうな木がないか探してきます」
宍「おう。悪いな」


香ばしい色になっていくマシュマロを芥川先輩を目を輝かせて見守る。口に入れれば甘さが広がる。


「おいし〜い!!」
芥「うめぇ〜!超うまい!すげぇじゃん、中下さん!」
「えへへ!ありがとうございます!」
宍「ったく。あんなもんの何が美味いんだか」
『宍戸先輩は甘いもの嫌いなんですか?』
宍「嫌いじゃねぇけど好んでは食べねぇな」
『ふふ。らしいです』
芥「もう一個いこう!」
「よしきた!!」


2人が盛り上がって居るのを少し離れた椅子に座ってぼーっと眺める。容赦ない日差しに少し疲れてるみたいだ。


宍「おい、大丈夫か?顔色悪いぞ」
『あ、平気です。ちょっと暑さに弱いだけで…』
宍「マジかよ。それ早く言えっての。あっちに陰があっからそこで休めよ」
『すみません。じゃあそうします』
宍「水も持ってけ。脱水症状になっちまう」
『あ、はい』


なにやら2人で何処かへ向かっている。気になって追いかけたいところだけど。そんな事出来ない。


「…芥川先輩?」
芥「あ、ごめん。焼けた?」
「はい。先輩って…もしかして美咲の事好きですか?」
芥「え……。な、なに急に〜ビックリするじゃん」
「違いました?よく目で追ってるからそうかなって思ったんです」
芥「…よく見てるね〜」
「あはは。私も同じですもん」
芥「はは。そっか」
「追っちゃいますよね、無意識に」
芥「うん。困っちゃうよね〜」
「ほんとですよ!見たくないものまで見えちゃうし!」
芥「だよね!無駄に傷つかないといけないC〜!」
「でもやっぱり見ていたいんですよね〜」
芥「うんうん。切ないね」
「はい。切ないです」


マシュマロを焼く音が聞こえる。目の前にいる彼女の髪が潮風に絡まる。こんな表情もするんだ。


芥「何も、言わないんだね」
「あはは。私、自分の事でいっぱいいっぱいですもん」
芥「はは。なるほどね〜」
「でも、話は聞きます。気持ちは痛いほどわかるから」
芥「…うん。ありがと」
「好きになるのもわかりますよ。私も男だったら絶対惚れてます」
芥「はは。女の子で助かったなぁ」
「ふふ。そうですね。ラッキーです」
芥「…君は、どうしてあんな素直に気持ちをぶつけられるの?」
「うーん。そうですね。言いたいって思った時に言わないと、手遅れになるかもしれないじゃないですか」
芥「それで気まずくなったりしたらどうしようとかって思わない?」
「思いますよ!私こう見えても豆腐メンタルですから!」
芥「ええ?嘘だ〜」
「ほんとですって!でも、どんな形でも宍戸先輩に関わりたいから」
芥「そっか〜。羨ましいなぁ、宍戸が」
「それもっと言ってやってください!」
芥「あはは!了解」


楽しそうに話すジローとあいつ。何だかさっきよりも仲良くなっているみたいだ。似たもの同士ってのはすげぇな。


「あ、宍戸先輩!お帰りなさーい」
宍「おう」
芥「あれ。あの子は?」
宍「暑いの弱いって言うから陰で休ませてる」
「え!私、ちょっと様子見て来ます!!」
芥「そんなに慌ててこけないようにね〜」
「あいあいさー!」
芥「あはは。面白いよね、中下さんって」
宍「あー、おう。見てて飽きねぇよ」
芥「…でも、実はしっかりしてるよね」
宍「え?」
芥「案外、周りのことよく見てるし」
宍「…お、おう。そうだな」
鳳「拾ってきましたよ〜」
芥「お、サンキュー!」


ギクっとした。あいつの話をするジローの目は。なんだか愛しそうに見えた。あいつがしっかりしてるなんて。そんな事今まで言わなかったくせに。


鳳「あれ?2人ともどこへ?」
芥「陰でお休みだって〜。俺も昼寝しよっかなぁ」
鳳「そうですね。少し休みましょうか」
宍「あ、お、おう」


長太郎に言われて我に返る。なんだっていうんだ。このモヤモヤした感じは。分からないまま全員で陰へ向かう。


芥「おーい、大丈夫〜?」
「あ、はい。寝ちゃったみたいです」
鳳「疲れちゃったんだね。じゃあ俺達も少し休もう」
「うん。そだねー」
芥「ふわーぁ…。俺も寝よー……ぐう」
「あはは。寝るの早!」
鳳「さすがジロー先輩です」
「ねー」
宍「………」


ジローの寝顔をなにやら優しい顔で眺めてる女。それが何だか妙にムカつく。なんだっていうんだ。


鳳「あれ、宍戸さん。どこへ?」
宍「散歩」
「あ、私も一緒に行っていいですか!」
宍「…好きにしろよ」
「はーい!」
鳳「行ってらっしゃい」
「行ってきます!」


変な気分は変わらない。だけど一緒に行くと立ち上がった女を見て少しほっとした。その理由は分からないけど。


「ん〜!風が気持ちいいですね〜!」
宍「おー」
「…宍戸先輩?どうかしました?」
宍「別に」
「えー。明らかに不機嫌ですよ!」
宍「気のせいだろ」
「あ、あれですか!私がウィンナー独り占めしたの怒ってるんですか!」
宍「お前じゃないっての」
「ん〜じゃあこっそり宍戸先輩を盗撮したから?」
宍「は?!お前んなことしてたのかよ!」
「あ、やば。あはは。嘘ですって〜!」
宍「ったく…。消せよ!いいな?!」
「ええ〜!せっかく撮ったのに〜!」
宍「撮ってんじゃねぇかよ!」
「あ、やっとこっち向いた!」
宍「…それがどうした」
「だってさっきからずっとこっち向いてくれないんですもん」
宍「あーそうだっけか」


そう言ってまた視線を逸らす宍戸先輩。何でだろう。何かしちゃったかな。心当たりはありすぎるけど。


「せんぱーい。なんで不機嫌なんですか。教えてくださいよ」
宍「うるせぇな。別に不機嫌じゃねぇっての」
「そんな嘘ついても無駄ですよ〜」
宍「しつこい」
「あ、ひどい!!それ結構傷つくんですよ!」
宍「知るか」
「む。さすがの私でもあんまりいじめると怒りますよ」
宍「あ、そ」
「宍戸先輩!理由くらい言ってください!」


思わず先輩の腕を掴んで言う。こっちを見る視線が冷たくて思わずビクッと体が反応した。


宍「機嫌が悪いんだよ。嫌ならどっか行け」
「……わかりました」


そう言って女は走って何処かへ行く。小さく溜め息をつく。何をやっているのだろう。あいつは何も悪くないのに。

心のモヤモヤがどうしてもなくならない。さすがのあいつも今のは腹を立ててもしょうがない。俺が悪い。


宍「激ダサだぜ……」
「そーんな貴方にオススメ!気分すっきり、カキ氷〜!!!」
宍「…………」
「え、あの…無反応は1番キツイです」
宍「…なんで、戻って来たんだよ」
「宍戸先輩の機嫌をなおそうと思いまして!カキ氷ですよ!」
宍「お前…怒ってねぇの?」
「怒る?私が?どうしてですか」
宍「どうしてって…」
「機嫌が悪いときなんて誰にでもありますよ。そんなことより、早く食べましょ!溶けちゃいます」
宍「…おう。サンキュ」


差し出されたカキ氷を受け取る。本当に何も気にしていないような笑顔。思わずつられて笑う。

青い空と青い海。照りつける太陽に冷たいカキ氷。夏に負けじと元気な変わらない笑顔。なんてゆうか、悪くない。
























BBQ

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