NOVEL

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あの後船から降りた俺たちは、初めての地方の空気を肺におさめた。



―――まだ知らない地方への期待と


―――これからあるだろう沢山の出会い



不安もあるが、それよりも大きな‘希望’




今までも、そしてこれからも、『トレーナー』として生きてゆく…その喜びが、身体中にひしひしと沸いてくる。



「〜〜〜っレッド!!」


「…うん…」




込み上げてくる思いを抑えきれずに、愛しい人の名前を呼べば、返ってくる返事。



その返事にこめられていた‘喜び’と‘期待’に、心底嬉しくなった…





戦う相手がいなくなり、1人篭っていたレッド




そいつが、嬉しそうに顔を緩める。




「…ぐりーん」


「なんだ」



「…ありがと」




嗚呼、良かった。


(そういう俺も、ワクワクしてんのは確かだけどな!!)








そんなこんなで辿り着いたのは大きなビルの立ち並ぶ街…




『ヒウンシティ』




‘ヒウンは 飛ぶ雲 めでたい雲’


確かそう書いてあった。


高層ビルが所狭しと立ち並び、人口が多い。



「スゴい人だな…」


夕方にも関わらず行き来する人が彼方此方に走っている。


(流石都会…)


でも、この類いの街はレッドにとって苦手なモノだ。


なんたって3年も人の全くいない山奥にいたんだ。


「レッド」


「……なに」



隣を見ると、期待に瞳は輝いてはいるものの、目の前を人が走り抜けていく度に無意識なのだろうがビクッと身体を反応させる我が妻が…



(しかも反動でくっついてくるし。)


鼻血でてくるかも。



「怖いか?」


「…怖いわけじゃ、ない。ただ、ビックリするだけ。…それに…」



視線が痛い…


と漏らしたレッド。
当たり前じゃないか。

お前可愛いんだもん。


でも確かにさっきから妙な視線が向けられているような気がする。



(解った…)



嫉妬だよ。

嫉妬。



みんな、レッドが俺のものだからって嫉妬してんだよ。


ふん、残念でしたー相手はもう決まってますー



(オ、レ!!)



想いにふける俺は、相当コイツに惚れてる。


―――――――今更だけど改めて感じた。




クイと袖が引かれる感覚に目を向けると、この街の…‘ポケセン’が。



「…っでけー…」

「…うん…」



この地方初のポケモンセンター…


思わず言葉を失う俺たち。




『ピィカ!ピカチュッ!!』

レッドの相棒が鳴く声で改めて周りを見回すと、すっかり暗くなっていて、ポケモンセンターから漏れる光が眩しい。



「今日のところはもう休もうぜ。船旅、疲れただろ?」


「…ん。」













**

ドサッと2人一緒にベッドにダイブした俺たちは、本日初めての安心感に襲われた。


なんたってずっと驚きっぱなしだったんだから、無理もない。



さっきだって、まさかセンター内にショップが入ってるとは思わなかった…




「レッド、先風呂入ってこいよ。」

「…」



「…レッド?」



「…グリーン…」


布団に押し付けていた顔をあげる


目に入ったのは、目を細めて微笑む愛しい人。



(今日初めてまともに見つめた――)



「…ね、俺、今凄く嬉しいんだ。


まるで、3年前に戻ったみたいで…





ドキドキするし





ハラハラもする。




だって知らないんだ。この地方のこと―――





ポケモンのこと…」






俺はそっとレッドの手に自分のを重ねて聴いていた

愛しい人の口から紡ぎ出される言葉、その1つ1つを、聞き逃すまいと。


「…俺は、今まで何してたんだろう…


自分の力を高めるなんて都合のいいことばかり盾にして――


俺がやってたことは、ただ、目の前にある現実を否定して、逃げてただけだ…。


…グリーンが、もし俺を倒すことなく、あのまま同じ場にいたら…



俺はこの幸せを知ることなんて無かった。」





(嗚呼…)



良かった。




こいつの本音…




俺は半ば諦めてた。





バトルに負ける度、こいつは此処にずっと居たほうがいいんじゃないかって。




こんなに強い、それも『伝説』なんて異名まで持っているこいつは、外の世界に出たって――――――





目立ちすぎる…





こいつは外の世界になんか出たくないんじゃないかって


外への希望を、とっくの昔に捨ててしまったんじゃないかって―――



そう思ってた。



この地方への旅だって、ほとんど俺が無理やり決めてしまったことだし。








「…――――――グリーン、」





俺は間違ってたんじゃないかって。


船に乗ってるときも、そう思ってた…





だから、







「ありがとう」





その言葉に、救われたよ。



(やっぱりお前は世界が似合う)


(笑った君には白い風を)


(泣いて俯く君には花束を)



(俺はこれから君を支える)


(パートナーになりましょう)


そう小さく心に決めた



この一瞬。






ハジマリ





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