イザシズ

□恋愛のススメ
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「恋愛ってなんだ?」

……………。

「はぁ?」

池袋の喧嘩人形と呼ばれる友人から、あまりにも中二じみた内容の電話がかかってきた。

しかも今は2時過ぎ。

非常識な君とは違って僕はまともな生活を送っているんだから変な時間に電話かけるのはやめてよね、と言おうとしてやめた。

その理由は僕が闇医者という非常識な職業についていたというのと命が惜しいから。

「…………いいから答えろ」

低くなる声に危険を感じ、仕方なく適当な辞書を掴んで開いた。

恋愛……れ、れ……

「あ、あった なになにー……「恋愛」は「恋」および「愛」を総合した定義である。同書では、まず「恋」は「〔男女の間で〕好きで、会いたい、いつまでも そばにいたいと思う、満たされない気持ち(を持つこと)」、「愛」は「損得ぬきで 相手につくそうとする気持ち」「〔男女の間で〕好きで、たいせつに思う気持ち」と定義する。そして、「恋愛」は両者を合同した形で、「〔男女の間で〕恋(コイ)をして、相手をたいせつに思う気持ち(をもつこと)…だってー」

棒読みで読んだことには怒らないようでなにかぶつぶつ言い始めた。

ニ分くらい彼の自問自答が繰り返されただろうか。

それを聞いてるのに飽きた僕は喋りだす。

「なにかあったの?」

静雄は少し考えてから話し出した。

「俺、嫌いだと思ってた奴がいるんだけどよ。」

僕はあまり聞けない友人の色恋話を興味津々で聞く。

「…そいつの事、上司に言ったらそれは好きってことだろ、って言われて。」

よくあるパターンね、と少しにやける。

「………でも……………ムカつくんだよあいつ!」

電話越しにグシャ、となにかを殴った音がした。

「いきなり俺の前表れやがってよお、なにもしないで帰っていきやがって!苛々すんだよ!!」

………今なにかが引っ掛かったぞ。

そういうことをする友人を僕は一人知ってるんだが。

「…………静雄。それって…相手………男?」

名前はださずにあえて一歩手前の段階を言った。

「んぁ?!なんでわかるん…………ん、んなわけねえだろ!!女だよ女!」

…僕の予想は的中した。いや、前からそうなるんじゃないかと思ってたんだけどね。

「…そっかぁ………でもさぁ、その人も、なにもせずに帰るっていう面倒くさいことするくらいだから静雄のこと好きなんじゃない?」

ちょっと試すような気持ちで言ってみた。

「…んなわけねえだろ。大体あいつは俺のこと嫌いなんだぞ?」

いつも強気な、友人の弱気な言葉に、少し驚いた。

「君だってその人の事嫌いだと思ってたんだろ?」

すこしの沈黙が流れた。

「……………そ…っか……」

聞き間違いかと思ったが、電話ごしに啜り泣く声が聞こえた。

「…泣いてるの?」

すぐ直後に涙を拭く音が微かに聞こえた。

「ばか、ちげーよ!!…………ありがとな」

少しだけ小さめに言われた感謝の言葉は、結構レア。

「………うん。どういたしまして。そろそろ眠いし、切るよ。」

あぁ、という声が聞こえて、電話を切る。

そして少し微笑んだ。




恋って案外気付かないものだよね。

どちらが先に痺れを切らすか。


「恋って面白いね…」






全く同じ内容の電話が、『その人』からかかってきたのは、また別の話。

 


終****

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