エレメントハンター

□アンバー
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ああ、そうだ。

「キアラ」
「何よ」
呼ぶとつんと澄ました表情で振り返り、長い髪がふわりと踊った。
キアラは白い指先を櫛にしてそれを梳いていた所だった。
自慢の髪をQEXに埃まみれにされ、若干不機嫌そうだ。

「何かよう?」
そういって近寄ってくる。
彼女はこちらが驚くくらい簡単に距離を縮めてくる。
引き離そうとすると逆効果で、
民間人は巻き込みたくないという俺の気持ちは、そんなの知るか!の勢いでまる無視。
危ないからどいていろと言えば突進するし、手を出すなと言えば率先して手を出し始める。
最近は会うたびに一人ピンチに陥っている。なのに自覚が無い。
レンは子供で落ち着き無いんだから〜と仲間を非難する割に、自分もけっこう無茶をする。
気が付けば目が追い、危なっかしくて目を離せない。
事あるごとに胸中を過っては、はらはらと心配になる。
そんなことを言えば、目を吊り上げて

「私のどこが危なっかしいのよ!レンじゃあるまいし!」
とぷんぷん腹を立てることだろう。




ずいと握った拳を突き出した。
「君にやる」
キアラは途端きらきらした目で両手を出してきた。
その上にぽとんと小さなそれが落ちる。
「なになにーコロニーの最新技術?あの乗り物とかなら・・・へ」
「希望のものでなくて悪かったな。君たちにコロニーの技術を渡すことはできない。機密事項だからな」
「え、ううんこれ、何?」
まじまじと覗き込む顔は本当に不思議そうで、ロドニーは当たり前のように答えた。
「アンバーだ」
「アンバーって」
「琥珀とも言う。木の樹脂が地中に埋没し長い年月をかけて固化した非鉱物。
物によっては虫が入っているがそれは、無いな」
虫のところで一瞬びくっとなったが、無いと聞いて安心したようだ。
一挙手一投足素直で分かりやすい。
深い深い飴色の石。日に透かすと濃淡が変化し、橙と黄色の間を行ったりきたりする。
煌びやかではないが心にほっとする何かを与え、温かみのある光沢を放つ。
「いいの?貰っちゃって!こんなきれ−なの」
「構わない。前の調査中に採取したものだが大して重要な情報は得られなかった。
だが装飾品としては良いんじゃないかとトムが言うから、加工してみたんだ」
「・・・え、まさかこれ星の形してるのあんたがやったの」
「そうだ」
キアラは目を丸くして小さな星を陽に透かして覗き込んでいる。
「繊細なことするのね〜」
「手先は器用なんだ。ただまあ硬度が低いからいろいろと小細工はしたが」
「へえーすごい」真剣に琥珀の輝きを見つめている。光の差し込む角度を夢中になって確かめている。
透き通る金色の光がキアラの白い頬に雫を落として瞬いているように見えた。
「あっ!」と大きな声を上げ、ぐるっとこちらに向き直ると
「もしかしてこれクリスマスプレゼントってやつ?」
「・・・・は」
「ちょっとーそれならそうと言ってよーっていうか予告してくれる?そうしたら私も何か持ってきたのに」
いや、別にそういうつもりでは・・・。
「あんたもなかなか憎いことするわね!」
ええと。
「じゃあ、えーとね」
ごそごそとブースターウェアの上を弄っても何かがでる筈も無い。
隙間など開いてるはずも無いから。
未回収のポジ元素でもくれるのか?とその行動を見守っていると。
「ロドニー手だして」
言われたままに差し出す。
「今はこれしかないから、ごめんね」
キアラは髪を飾っていたリボンを解いて俺の手首に小さな蝶々を作って止めた。
「なかなか似合うわよ。今度会った時ちゃんしたプレゼントと交換してあげる。引換券みたいな感じ?
クリスマスなのにQEXと戦う羽目になって埃まみれで気分最悪だったけど。
どーでも良くなっちゃったわ。あ・・・ありがとう、ロドニー」

突然目を逸らし、もじもじとキアラは礼を告げた。
耳まで真っ赤にして。
ちょっと怒ったような顔をして。

「キアラ」
名前を呼び両手首を捕まえた。
突然の行動にわっと声を上げた。
「なっなによ!」
「アンバーは君の髪の色に、とても似てると思ったんだ。だから渡したかった」
肩がびくーっと上がってキアラはますます目を吊り上げた。
「・・・・ちょっとーそういうこと目を見て言わないでよ!!!はっはずかしー!なんでそーいうことできるのっ!ばかっばかばかロドニー」
「誰が馬鹿だ。親にも言われたこと無いぞ」
「うるさいうるさーい、もうプレゼントあげないんだからー」
ムキになって頬を膨らます。
顔は相変わらず真っ赤で、照れて怒っているのか、ただ怒ってるのかなかなか見分けはむずかしい・・まあ、照れているんだろう。
勝手にそう思う。
「別にいいさこれで」
手首でひらひらと揺れる青いリボン。
「えっえー」まさかの反応にキアラは驚いて、今度は眉を下げた。
「いや、ちょと冗談よ。ねえ、ちゃんと用意するわよ?」
「これがいい。君の目と同じ色だしな。似合ってるんだろう?」
「うっうぐっ!!またっそういう恥ずかしいことを言う・・・い、いーけど。後からやっぱりちゃんとしたものが欲しいって言っても駄目なんだからね!」
いーの?いーのね?と念を押してくる。
その真剣な顔に思わずほろっと笑みが零れた。
「なっなんで笑うのーもう知らないからねっロドニーのばーか」
ふんって背を向けた。でも時々ちらっと振り返ってはいーのねーと口が動いている。
俺はもちろんと頷いて手首の青いリボンを風に遊ばせた。
そして、なんともなしに唇を寄せると
遠くからでも分かるくらいキアラは真っ赤になってバカーと叫んだのだった。

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