エレメントハンター

□focus
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「やあロドニー!今日も仏頂面なそんな君にプレゼントをあげよう〜」

やけに間延びした声で、へらへらと笑いながら近づいてきたトムはマジシャンみたいに
扇状に写真を広げた。
一瞬オレンジ色の光ばかり目に入って、夕焼けの写真かと思った。
が、それは違った。
鮮やか過ぎるオレンジは、長い髪の色。
勝気な目が、澄んだ湖水色の瞳でロドニーを見つめてくる。
「キアラ?」
「正解でーす!どお、うれしい?選りすぐってプリントしてみました」
と、無理やり持たされる。
それはいろんな角度から撮られたキアラの写真だった。
横顔や、正面。
相変わらず目を吊り上げて怒っている。
尖った口元。
べえっと舌を出しているのもある。
「何考えてるんだ盗撮なんて・・・」
趣味が悪い。
そう注意をするつもりが、ある写真が出てきた所為で言葉を失う。






笑ってる。






細い眉も、目じりも下がって。
陽だまりのような、微笑み。



むか。





突然こみ上げた、何かに眉根が寄る。
さらに、出てくる写真。
心配するように、覗き込むキアラの表情は切ない。



そんな顔、めったに見れるものではないことを、
ロドニーはうんざりするくらい知っている。
あいつ、あんなに怒ってばっかりなのに、どうしてこんな写真撮られているんだ!



しかもしっかりと視線が向けられている。
フレーム越しに目が合っている。



安心したように、柔らかく笑む彼女の視線の先にいるのは?



ぐつぐつ、ぐらぐら心の底が煮立ってきて、黒い感情が上ってくる。
写真を握る手に力が入って、くしゃりと音を立てた。








「あーはっははーひーすごい顔―」
突然トムは人の気も知らずに腹を抱えて笑い出し、挙句にロドニーの眉間に指をつきたててきた。
余りの苛立ちに大人気なく振り払うと、
「おっとー」と言いながら後ろに飛んで避けられた。
「ちょっとちょっと何怒ってんの?」
「怒ってなどいない」
「どこが、せっかくの超二枚目な顔が台無しだよロドニー」
「うるさい!!!」
くそっ苛立つ。
何もかも全部キアラが悪い。
いつも怒ってばっかで、めったに弱い顔なんて見せないくせに。
何でこんなに簡単に写真に撮られているのか、どうしてそんな顔見せられるのか。
その先にいるのが自分でないことに、血が沸騰しそうだ。






「ああ、あ、そっかーなーるほどねー。だから、怒っているのか。うんうん」

と、何かに八つ当たりしたいオーラ立ちまくりのロドニーの真横で、
トムは一人納得して楽しそうに笑っている。
「何がおかしい」
「いや、おかしいでしょ。あのさーこれ、分かんないの?」
「何が」
「見覚えない?」
「知らんっ!!」
「ふーん。変なの、これ全部ロドニーの脳内映像から引っ張ってきたのに」






「・・・・・・・・・は?」
長い沈黙の後。
漸くトムの言葉の意味に、目を向いた。
もう一度漏れる。
「はい?」


「だから、ロドニーの脳内映像から、僕が、抜粋してプリントアウトしてきたのに、覚えてないの?」


君の記憶でしょーが。とトムが呆れた顔をした。


え?

それを踏まえた上で、もう一度少し皺の寄ってしまった写真を見る。

怒った顔、笑った顔、ほっとした顔。

そう言われてみれば・・・たしかに。
これは、
「民間人は帰れ!」って彼女たちを追い払おうとした時の顔だ。
こっちはホミたちが地中に攫われて、安否の確認が取れたときの顔だし

この心配そうな顔は、彼女を庇って怪我をしたときの・・・・。

なんだ、全部彼女の視線の先にいるのは・・・・・・自分だ。


「うわーお、ロドニー君、顔とけてるよ」

はっとなって顔を隠したが、トムはもう可笑しくってたまらないといった風に声を上げて笑った。
「だいじょーぶ安心して、僕はハンナちゅわん一筋だからさ!
ま、キスでもしちゃった日には言ってくれよ、解析チームに渡る前に僕がこーっそり回収してあげるからさ」
くふふっ!
「ト・・・・トム!!!」
怒鳴りつけてもトムはご機嫌に去ってしまった。
残された写真の束。
いろんな表情の彼女がこちらを見つめてくる。
それはロドニーの瞳を通して写った彼女だ。
「僕の目にはこんな風に見えてるのか」

それはとても馬鹿馬鹿しいくらい当たり前のことなのに、何だかちょっと不思議な気もする。
なぜなら、このとき笑った彼女はもう少し、

可愛かった気がしたから・・・。




知らず耳まで赤くなる。
そんな自分を誤魔化すように、咳払い。




見下ろす写真の中で、馬鹿ねえって呆れたように笑う彼女を見つけた。

たしかにな・・・と胸の内で呟いて。


自分の所為で皺の寄ってしまった写真を丁寧に伸ばした。
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