エレメントハンター

□右手
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あたしの右手はずっとあいつに掴まれたままでどこまでも終わりの見えない道を
たった二人で歩き続けている
不思議と嫌でないのが不思議で

なんで、こんなことになったのかしら・・・あたしはずっとそれを考えている。





***




遡ること数十分前のこと。
いつものようにQEアラートが鳴り響き、ネガアースへやってきた地球チームと
コロニーチームは当然のように鉢合わせ。
同じQEXの反応を追ってきているのだから当然だ。
「まーた邪魔する気ね」
「邪魔などするか!危ないから民間人は帰れ」
「なんですって〜!!」
というこれもまた定番となったロドニーとのやり取りの最中
うしろで
「ひゃっ!」
という悲鳴を聞いたと思って振り返ると
ホミの姿が消えていた。
「―――え?」
「うわっ」
今度は前にいたハズのロドニーが消えている。
混乱して見渡すと、わけが分からないと思いっきり顔に書いてあるレンがキアラの目の前で消えた。
「ちょっちょっとレン!!」
駆け寄ろうとした瞬間、地面を踏むはずだった足が空振りするように落ちた。
「なっ何っな、きゃ――――――――」
突然足元がなくなり、体が下へ下へ落ちていく。
長い滑り台に乗っているような感覚で、右へ左へ暗闇の中を降下。
最後には悲鳴とともに投げ出され、前のめりに転がった後、
ぐえっ!という声を聞いた。
何かを押しつぶしたのだけは分かり、慌てて体をどける。
「だっだれ!」
「・・・・人の上に落ちてきておいてそれはないだろ」
不服そうな声色は先ほどまで口げんかしていた相手だった。
「あ、なんだロドニー」
「頼むから、謝るかお礼くらい言ってくれ」
「ご、ごめん」


一切光の入る隙間が無い空間で、ぼんやりとお互いを確認できるのはブースターウェアに供給されるエネルギーの灯のおかげだった。
キアラの顔が赤い光で幽かに浮かび上がるのと同じようにロドニーの顔も黄色い光で浮かび上がっている。

「ここ、何?」
「分からない、洞窟のような場所だとはおもう。声が響くし」
「皆も同じように落ちたのかな?」
「ああ、たぶんな。僕たちのように別の場所でそれぞれが出会っていればいいが」
そう口にしながらロドニーはエレバイルを操作する。
途端響き渡った雑音に音量を調節し、耳を澄ますが、ノイズ音しか聞こえてこない。
「電波が悪すぎて通信が取れない」
電波を探すようにエレバイルを四方にさ迷わせる、音が少し変わった。
「あっ」
思わず声が漏れる。
ロドニーは頷いて立ち上がった。
「地道だが音の変化を頼りに合流するしかない行くぞ」
「うん!」
勢いつけて立ち上がりロドニーに続こうとした瞬間、何かに躓いた

ごち。

と鈍い音がして、ロドニーが驚いた声を上げた。
「なっなんだ?」
「い・・・たた躓いて・・・あんたのアクトシェルに頭突きした・・・」
「大丈夫か?」
「うん・・・へーき。でも足元暗くて良く見えないから」
「そうだな、慎重に行こう」
そうね。と返そうとした言葉が止まった。
ごくりと飲み込む事態が、余りにも自然に行われたため言葉を失ってしまったのだ。
な・・・何?これ。

慎重に行こう。
と言葉を発したすぐ後の出来事だった。
ロドニーがキアラの手を掴み、当たり前のように歩き出したのだ。
あれあれ?
と不思議がっているキアラのことなど気にも留めず、
ずんずんと進んでいく。
エレバイルの反応を確認しつつ、的確にノイズを拾っていき、洞窟の通路に出た。
反応が良くなれば、走り出し
「思ったより早く合流できるかもしれないぞ!」
と明るく報告する。
その間もずっと右手はロドニーに掴まれたままだ。
だんだんこのおてて繋いで状態をおかしいと思っている事態おかしいことなのかしら?
と麻痺してきた。
それほど自然に掴まれていてロドニーがキアラの手を離す気配すらない。





暫くして前方から光が近づいてくるのが見えた。
「あっ」と声を上げたのと同時、相手も声を上げた。
「おっおー見つけたー」
「レン!平気?」
「あったりまえじゃん、こっちにはアリーがいるんだぜ。な、アリー」
「え、何が?でもよかった合流できて、ノイズを拾ってきたのね」
「ああ、やはり君もか」
「おおーいアリー、ロドニーやほー」
「なんと申しましょうか、全員そろいましたね」
「これで揃って帰れるわね・・・・ってどうやって」
「はいはいお任せください、ちゃーんと策がありますよ」
にこりと人差し指を立てたトムが怒涛の薀蓄を炸裂させた。




そして、地上。
「ぶっはー、ああーびっくりした」
「モグラの巣みたいだったねえ」
「それでQEXはいったいどこに?」
「反応が途絶えててるよなあ」
「あのさーそれより先におれ、聞きたいことがあるんだけど」
「なんだトム何か重要なことか?」
「うん、たぶん重要。後たぶん皆も思ってる」
「何のことだ」
「だからさ、ええと・・・ロドニーとキアラはいつまでそうしてる気なんだい?」
「?」
「嫌だねー、さっきからず――と手を繋いだままじゃないか」
「え」
そろりとロドニーの視線が落ちる。
確かにそこにはしっかりとキアラの手を掴んでいるロドニーの手。
「うわっ!!」
びっくりして手を慌てて離され、キアラは漸く自由になった手をぷらぷらとふった。
「なっ何故?」
「何故ってあんたが最初からずっと掴んでたんじゃない」
「え、ええ?」
わけが分からないと混乱する顔に、こっちが溜息だ。
この男途中からこの状態を忘れているんじゃ・・・いや、まさか?と道中散々悩まされたがまさか本当に忘れてるとは・・・。
考えること事態ばかばかしいのかも?に達していたキアラは今更溜息しか出てこなかった。
「はーやっと開放された」
「なっ早く言えばいいじゃないか」
「だって忘れてるとかありえないし」
「うっだからってなにもずっとこんなとこまで黙って無くても」
「あたしが悪いみたいに言わないでよ!離さなかったのはあんたでしょ」
「言う機会は十分にあっただろ?」
「だから、知らないわよ気づく機会はいくらでもあったでしょ!」
「離したかったら離せばよかっただろ!」
「それはあんたでしょう!!!」


ぎゃあぎゃあと言い合いは続く。
レンはあーあまた始まったとうんざりな顔をし、ホミは顔に『なんと申しましょう』と書いてある。
アリーは止めなくていいのかしら?と口を出そうかどうか躊躇し
トムはにやにやと笑って見守っている。
そんなとき高らかにQEX反応が響き渡る。
「おっしゃ現れたいくぞー」
レンが声を上げて走り出し皆が続く
「あっ!」
「ええっ」
と取り残されたロドニーとキアラが一歩遅れて走り出し、
キアラが少しだけロドニーから遅れた。
ロドニーは振り返って、当たり前のように手を差し出し
「早く行くぞ」
とキアラの手を掴む。



ああもうこいつはーと思いつつも。
無意識にそうされてしまうと悪口も浮いてこない。
意識したほうが負けだ。
いつかどうしてあたしの手を掴んだのか問いただしてやるのもいい
そのとき聞ける言葉があたしの思い描いてるものだと良いけどね。


「はいはいっ分かってるわよ!」
そう返事して、あたしはスピードをあげてロドニーを追い越す。
あたしがロドニーの手を引っ張るような形になってようやく
ロドニーは「あっ!?」という顔をした。
それが面白くてあたしはただ笑った。
彼の頬が少しだけ赤くなるのに気が付けば、答えを聞く日も遠くないのかも。
そんな風に思った。
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