エレメントハンター

□出発前夜
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コロニーの整った景観に人工雨が降り注いでいる。

さあさあと降る雨はその量も時間帯までも決められていて、天気情報は余りにも正確なその内容を淡々と告げる。

『本日の降水量は80パーセント、13時から17時の間です』

あと20分でこの雨もやむ。
プロジェクトみらい本部の玄関ロビーから、ブラインド越しにロドニーは外を眺めていた。
降り続ける雨に草も木も、濡れている。
曇天の空に辺りは暗く、もう夜のようであった。
そんななかウィン、と音を立てて開いた自動ドア。
からからと小さなカートを転がしながら少女が中に入ってきた。

彼女がこちらに気づくと驚いた顔になって、その場で立ち止まってしまった。
ロドニーは彼女を待っていた。
彼女が十一次元に行く前に一度地球に戻り家族と過ごす時間を与えられ、心を決めて帰ってくるのをここで待っていた。
ずっと・・・話がしたくて。

「キアラ・・・もう戻ってきてよかったのか?レンもホミも当日の朝に帰ってくると聞いていたんだが・・・」

「うん。大丈夫よ。パパとゆっくり話も出来たし・・・ちょっと早くこっちに戻ってきたかったからね、せっかく決めたのに気持ちゆれちゃったら嫌だしね」

平気そうに笑う彼女の表情が先日会った時よりもどこか不安さが増しているように思えた。
コロニーを一時離れたことで、自分の状況を落ち着いて考えられたのかもしれない。
十一次元へ行きそこに巣くう次元の虫を倒しに行く――そんなストーリーにはしゃいでいたのも数時間だった。
未知の次元へ行き化け物を倒しにいく。
下手したら死んでしまうかもしれない。
そんな中へ飛び込めというのだ。
しかもそれは沢山の練習を積みエレメントハンターとして政府に選ばれた僕たちではなく、脳内にナノポータルを有する彼女たちにしかできないという。

地球の元素消失を止めるために何年も訓練に励んできた自分たちが選ばれなかったことが
ショックじゃないといわれれば・・・嘘になる。
だけど今はそんな自分のプライドや、使命感よりももっと大事なことがあった。

その気持ちに気づくのが、遅かったのか早かったのか・・・分からない。
意識し始めた自覚が出た矢先、彼女がとてつもなく危険な目に合いに行かなくてはならないという現実に打ちのめされたのだ。
彼女に好きなのだと告白したのもそんな切羽詰った状態で、何だか一方的で状況も儘ならなかった為
「馬鹿」ですまされてしまい、返事はお預けになった。
今聞かなければ、次は無いかもしれない。
彼女たちを信じていないわけではない、だけどその可能性を考えずにはいられない。

目の前にいる同じ歳の、気の強い少女がその強い眼差しで自分を見つめるのは
これで最後かもしれない。
今青い瞳に自分だけが映っていて、ただそれだけが嬉しくて、切ない。
この気持ちをどうしたら分かってもらえるんだろう。

「それでロドニーはどうしてここにいるの?誰かまってた?」
彼女が首を傾げる。
僕はいや、と首を振り彼女を真っ直ぐにみた。
「君を待ってた」
「あ・・たし?」
「ああ、話がしたくて」
「何よ話って」
「それは僕が君を」
「わあああっまったくだから、なんで今なのよ!今はそれどころじゃないっていうか、いまは十一次元に行くことで頭がいっぱいというかあの、あのねロドニーそれはちょっと置いておいてもられると助かるんだけどな」
「・・・それはいつまで」
「いつまでって・・それは帰ってきたら」
「帰ってくるのか?」
「なによ、あたしのこと信じてないの?」
「信じてるさ」
「じゃあ信じてまっててよ」
「だが!最後かもしれない・・・」
想像すると怖くてたまらないのだ。
彼女が自分の知らないところで傷つき、いなくなってしまうかもしれない。
そんな不安を抱えたままここで、コロニーで、いつ帰るか分からない彼女を待ち続けることができるんだろうか。
何か確かなものが欲しい。
約束が欲しいと思った。
何と言っていいのか分からず唇をかんだ。
すると彼女は「あーもう分かったわよ、話するんでしょ、気の済むまでつきあってやるわよ。あんたの言うとおり・・・最後かもしれないし、けんかも出来なくなっちゃうかも知れないからね、いいたいこと全部言い合ってそれで・・・あたしは十一次元にいく。あんたもそれでいいでしょ?」
「・・・ああ」
「えっとどこかいいとこある?」
「部屋に案内する」
「どこの」
「僕の自室だ」
「あんたの部屋〜?」
「ラウンジは人も多いしな、プライベート空間と行ったらそこくらいしかない」

「うっ。そ・・・そうね、いいわよいきましょっ」
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