エレメントハンター

□帰還直後
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「エレメントハンターの帰還反応でました」
管制室からの情報にロドニーはポータルルームへと急いだ。
広い空間に光の塊が浮いていて、急速に発光したかと思うと光が収束されていく。
眩んだ目を瞬いて、もう一度見えるようになった時、空中にそれは浮いていた。

ずっと待っていた人が、十一次元の彼方から戻ってきた瞬間だった。



思わず手を伸ばす。




その指先に彼女の指が触れて、その感触が現実だと分かると、彼女を力いっぱい引き寄せて肩口に抱いた。



ああ、彼女だ。彼女が無事に帰ってきた。
その事実に胸がいっぱいになり、ただ力をこめて抱きしめる。
そうすると、彼女は顔を上げて
「ねえ」と呟いた。
「何だ」
もう片時も離したくないと腕の中に閉じ込めたまま。

彼女は耳元でぽそりと言った。

「ただいま」
柔らかい声がそれを告げれば、僕の胸はまたいっぱいになって。
涙がこみ上げそうになった。
そうだずっと待っていた。
彼女とその言葉をずっと待っていた。
「おかえり」
うん。
と僕の胸元で頷くと彼女は全身を僕に預けた。
彼女が十一次元へ旅立つ前よりもずっと愛おしく感じた。
本当に彼女が好きで、好きでたまらないと体の奥からキアラへの思いが溢れてくる。
キアラが約束どおり僕の元に帰ってきた。
腕の中に、それも地球の危機を救って。
僕たちの未来は今、確かに繋がったのだ。



「うおーい俺たちもいるぞー」
「なんと申しましょうか・・・忘れられてるよね?」



「あ、いや、よくやったぞお前たち」

「はいはい、あんがとさん。いーよ俺はアリーに褒めてもらうから」
「あの、ハンナはどこに?」
とレンとホミがお目当ての人物を探す。
暫くして駆けてきたアリーが、レンが飛びつく前に抱きしめた。
「偉いわレン、よしよし」
といってかいぐりかいぐり頭を撫でている。
まるで家出していたペットの犬が帰ってきたようなアリーの対応だが、レンはまんざらでもない顔をしてるので、たぶん幸せなのだろう。
えへへと相好を崩してここぞとばかりに甘え倒す気でいるのがありありと見て取れた。
それもいいだろう。彼らは命をかけて別次元へ行き元素消失を食い止めた事実上のヒーローなのだから。
それから事の次第を見守っていた大統領やコフ司令官などスタッフが集まってくる。
拍手でレン達は迎えられ、彼らは恥ずかしそうに頭をさすっていた。

「帰って早々申し訳ないが君達にはメンタルチェック、メディカルチェック脳内CT等々検査尽くしになってしまうが大丈夫か?」
「オッケイオッケイ!元気は今アリーから充電したからなんでもこい!」
ホミも大丈夫ですと頷くと、目元を和ませた指令がそれならよかったとそのまま視線をこちらに向けた。
「・・・そっちの彼女もいいかな?」
はっと今の今まで抱き合ったままだったことに気づき、慌てて彼女から腕を離そうとした


瞬間


がくっと彼女の体が落ちかけた。
慌てて抱えなおすと、様子がおかしい。
ぐったりと身を預けたまま、先ほどからピクリとも動いていない。
ロドニーの服を掴んでいたはずの指もだらりと落ちている。
彼女の体には一切の力が篭っておらず、まるで糸が切れた人形のようにロドニーの腕に抱えられている。
「キ・・・アラ・・・?」
呼びかけに彼女の顔は上げられず俯いたままだ。
嫌な・・・予感がこみ上げた。
恐る恐る彼女の顔を上に向かせると

「――――っ!?」

ただでさえ色素の薄い肌は更に血の気を失っていて蒼白に、

赤い実の様に艶やかだった唇もまた紫へと変わっていた。
どうして今まで気づかなかったのか


彼女の体温が失われつつあったことに



その唇が細い呼吸を止めつつあることに

「キアラ」

問いかけても答えない。

「キアラ?キアラ!」

頬を軽く叩けばその冷たさにぞっとした

ただいまと呟いた唇は頑なに閉ざされたまま
彼女の命が零れていくのを全身で感じる


彼女は帰ってきた。
約束を守って地球を救って。
ちゃんとロドニーの腕の中に。
約束は果たされた。

だから、ばいばい。
そんな声が聞こえた気がして頭を振った。


嘘だ。

嫌だ。

何も、まだ何も伝えきれていない。

僕らの未来は繋がったのに、
告白の返事もきちんと貰っていない。
頭のなかが白くなっていく、手足は痺れて感覚が無くなっていく。
彼女の顔が歪んで見える。
消えてしまう。意識した途端、恐ろしいほどの喪失感がロドニーを掻き毟った。





「キアラ―――――――!!!!
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