長編小説『女神の盾』

□「君は女神なんかじゃない」
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「まどか… 君はその姿で、『何から』『何を』救うつもりなんだ…?」

「わたしは… みんなを…! 魔女を…ッ…!」

僕は溜め息をついた。

―姿形が女神になっても、まどかは『鹿目まどか』のまま何一つ変わっていない。

キュゥべえに騙されてしまった、バカなまどかのままだ…

「確かに、君の祈りによって魔法少女は救われる… もう、魔法少女が魔女になる事はない…」

それが、まどかの願いだから。

「だが、僕らの力は、誰から与えられたものだった?」

「………!!」

僕の問いに、まどかは表情を強張らせる。

「魔法少女のシステムは、キュゥべえ達がエネルギー回収の為に作り上げたもの…」

魔法という精神文明を構築した、正体不明の宇宙生物…

「君の祈りによって、奴らのエネルギー回収計画は大幅に遅延する事になる」

魔法少女が魔女化することで得られるはずのエネルギーが回収できなくなれば…

「…あの狡猾なインキュベーターが、大人しく引き下がってくれると思うかい?」

何よりも効率を優先する奴らの事だ。
魔法少女システム以上に残忍なシステムを新たに構築するに違いない―

「まどか… 君の祈りは、何も救えない。何も守れない。結局、君はアイツに踊らされただけなんだ…」

うなだれるまどかに、僕は決定的な言葉を告げた。

「まどか… 君は女神なんかじゃない」

「………!!」

怒りを宿した金色の瞳が、僕に向けられる。

「そんなことない!」

叫ぶ女神から僕は距離を取り。

「聞いているんだろう!? インキュベーター!!」

何もない空間に向かって声を上げた。

刹那。


『やれやれ…』

何もなかった空間に、ふわりと白い小動物が現れた。

『せめて別れを惜しむ間くらいは、ボクが居ない方がいいと思って姿を消してたんだが…』

綿菓子の様な尻尾を揺らし、インキュベーターは不平を口にした。

『どうやら不要の配慮だったらしいね』

「キュゥ…べえ…?」

完全に予想外の事だったらしく、まどかは呆然と立ち尽くしている。

もっとも、僕らのいる空間には天も地も存在しないが。

『時間遡行者・暁美ほむら』

赤い双眸をこちらに向け、奴が問う。

『ボクを呼んだ用は何だい?』

「………」

僕は目を閉じ、考えをまとめて―

「お前と取り引きがしたい」
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