長編小説『女神の盾』

□「なりたい自分になれるんだ」
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「ほむらくんも、カッコよくなっちゃえばいいんだよ!」

最初に出会った、鹿目まどか。

学校生活に戸惑う僕を、持ち前の優しさで助けてくれた彼女。

だが、彼女はもういない。

臆病な僕が、彼女を見殺しにした。


「やったあぁ〜!! すごいよ、ほむらくんっ!!」

力を得て、二度目に出会った鹿目まどか。

魔導士として、僕が初めて魔女を倒した時。
彼女は誰よりも僕の勝利を喜んでくれた。

…彼女も、もういない。

無力な僕は、苦しみもがいて絶望に染まる彼女を、ただ見ていることしか出来なかった。


「やっと名前で呼んでくれたね… うれしい、な―」

三度目に出会った鹿目まどか。

この時僕は、彼女を待ち受ける運命を知った。

僕が彼女と交わした約束。

しかし、彼女ももう…いない。

僕自身の手で、殺してしまった。






『どうだい? 暁美ほむら』

今となっては聞き慣れた、忌まわしい声。

『鹿目まどかという存在の結末を見届けた感想は?』

「………」


かつて、こんなまどかもいた。

超弩級の魔女を倒すため、契約の願いで『力』そのものを望んだ鹿目まどか。

しかし、一撃の元に巨大な魔女を倒した彼女は、自分自身が最悪の魔女となり果ててしまった。

救済の女帝―

魂を肉体という檻から解き放ち、自身が作り出した楽園へと導く…

全ての生命を救うため、全ての生命の存在を否定する『慈悲』の性質を持った暴君―

彼女はもういない。

卑怯な僕は、彼女を見捨てて逃げ出した。


「……そして」


全ての魔女と魔法少女を救おうと、仮初めの女神となった鹿目まどか…

彼女の純粋すぎる祈りに、偽りなんてあろうはずが無い。

だが、インキュベーターとの契約に、救われる望みはない…

結局、女神となったまどかも、魔女となったまどかとやろうとしている事は同じだ。

…そんな彼女も、もういない。

僕は、救いの手を差し伸べた女神を振り切り、また逃げ出してしまった。

―コイツと共に。


『鹿目まどか。やはり彼女は危険すぎる』

見慣れた白い部屋。

僕が入院している病院の病室だった。

『確かに、彼女の魔法少女の素質は規格外だ』

そして、ベッドに横たわる僕の枕元に、あの白い獣の姿があった。
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