長編小説『女神の盾』
□「貴女とは戦いたくない」
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「間一髪、って所ね♪」
雷鳴のごとく銃声を響かせ―
「苦戦しているのかしら? 魔導士さん」
金色の巻き髪を揺らし、百の長銃を従えるその姿―
いつか僕が憧れ、そして追いかけた理想―
「巴…マミ」
彼女はどこまでも強く、美しかった。
「あら。私の名前を知っているなんて、感心ね」
言って、彼女は足場にしていた鍾乳石から飛び降りる。
魔法少女の気配を察知した魔女は、慌てて僕から離れると、
バサバサと羽ばたいて洞窟の天井にぶら下がった。
「………」
マミは僕の隣に降り立つと、手にしたマスケットの銃口を魔女へと向ける。
………
コウモリの魔女は迷っている。
目の前には極上の獲物が二匹。
しかし、自分にとっては天敵である魔導士も二人。
頼みの使い魔も追い散らされ、先程までの余裕はもはや無い―
暫くの間、睨み合いが続いていたが。
動いたのは、魔女の方だった。
黒い翼を広げると、逃げ去った使い魔たちを追いかけるように洞窟の奥へと飛び去ってゆく。
…やがて、魔女の結界は消え、世界は元のショッピングモールの天井裏へと戻った。
(ふう…)
気付かれぬように、僕は息を吐いた。
―巴マミが魔女を見逃したんじゃない。
魔女の方が、僕らを見逃したんだ。
魔女は2対1の不利な勝負を避けた…
見た目以上に、計算高い奴らしい。
「あ、あの!」
鹿目まどかが、巴マミへと駆け寄る。
「ありがとうございますっ。助けて…もらっちゃって…」
「ふふ。お礼は、この子に」
言って、巴マミは僕の方を見る。
「………」
巴マミ…
彼女の顔には、余裕の微笑が浮かんでいた。
僕がこんな無様な戦いを挑んだのは、鹿目まどかを守るため。
…ついでに美樹さやかも、だ。
結局、キュゥべえが僕の手元に居たにもかかわらず、まどかは前の時間軸の時と同じ場所に現れ、
まどかと巴マミの出会いを阻止する事はできなかった。
「ありがとう。ほむらくん」
「転校生… あたし、あんたのこと誤解してた。てっきり電波系の危ない奴かと…」
「………」
礼を言われても、僕の心は複雑だった。
僕の役割は、マミが登場するまでの道化だったのか?
『マミ。よく来てくれたね!』
あの白い奴が節操なくマミに駆け寄る。
「もう、キュゥべえ。突然いなくなるから心配したのよ?」
と、マミは困ったような顔をする。
『それは悪かったよ。僕は彼のサポートに忙しかったのさ』
「彼…?」