長編小説『女神の盾』

□「君は女神なんかじゃない」
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まどかが、地球より大きな魔女を倒した。

「全ての魔女を、生まれる前に消し去りたい…この手で!」

…彼女の願いは、確かに叶えられたのだろう。

『これでキミの人生は、始まりも終わりもなくなった』

インキュベーターの律儀な解説が響く中、宇宙は新たな法則の元に再構成されつつあった。

『…鹿目まどか。キミはこの宇宙の一員ではなくなった』

………

僕は、それをどこまでも冷めた心で見つめ、聞いていた。

「鹿目…まどか… どうして、君は…」

君の祈りによって、いずれ魔女になる魔法少女たちは救われるだろう。

これで、いずれ魔女へと導かれるはずの騎士たちは君の祈りに導かれるのだろう。

魔女が生まれなくなった世界は、救済されるのだろう。

だが…

「まどか… 君は、誰が救ってくれるんだ…」

聞き手のいない問い掛けは、天も地も無い空間に響くだけ…

「何故、君は… 自分の幸せよりも他人の幸せを優先するんだ…!」

「それは違うよ。ほむらくん」

………!!

「わたしは、他の人の幸せを優先してるわけじゃないよ」

振り返れば、桃色の髪に黄金の瞳―

「何て言えばいいのかな―」

魔を滅ぼす長弓に、宇宙の色を映したドレスの裾を従えて―

「他の人の幸せが、私の幸せなんだよ。きっと」

光の翼を持つ、女神が佇んでいた。

「やな事もいっぱいあったけど… それでも、この世界は… わたしが守りたかった世界だから」

そう言って、女神ははにかむ様に微笑んだ。

………


「冗談じゃない…!!」

「……え……」

僕の中に湧き上がったのは、冷たい怒りだった。

「まどか… 君には過去も未来も、これまでに僕が経由してきた世界も、全てが見える…そうだろう?」

「う…うん…」

女神は気圧された様に頷く。

「それなら君は…! 僕の祈りも知っているはずだ!」

「………」

「僕が何のために魔導士になったのか!」

「………」

「僕が君と交わした約束の事も!」

………

僕は何をしているのだろう。

今や神となった彼女に、自分の感情をぶつけている…

けれど、止められなかった。

「まどかを救う… 君を守る! それが僕の願い! 君は僕の願いを否定した!」

「ほむら…くん…」
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