その指先に 【完結】

□a variation
1ページ/3ページ

きっかけなんてささいなことで。
どう転ぶかなんて自分次第なんだ。


【3.a variation】


日帰りライブから3ヶ月ほど過ぎ、すっかり葉を落とした街路樹にはうっすらと雪が積もっていて、見える景色は白く染まっている。
久しぶりに通る道。
記憶の中とは変わっている所を探しながら見慣れた建物に近づいて行くと、人影ふたつ。

「ようこそ。いえ、この場合はお帰りなさいと言うべきかしら」
「どっちでもかまわねぇよ」

校門の前、にっこりと笑ってあたしを迎えたのは、かつて喉から手が出るほど切望した星。
その横に佇む参謀に、トレードマークの鉢巻は無かった。

「来てもらえて嬉しいわ」
「今や時の人、ですからね」
「…まぁ、息抜きだ」

メジャーデビューを果たしてからというもの、周りが急激に変化した。
面倒だから露出は必要最小限にしているが、それでも執拗に出演依頼だとかインタビューだとかの話がここ数ヶ月、毎日のように舞い込んでくるようになった。
誰にでもいい顔して接するなんて、あたしの性格では難しい話。
あれこれ縛られると反抗したくなるのは、まだまだ子どもだからなのか。
気付いたら年が明けてた、なんて笑えない。
とにかく一度気持ちをリセットしたいと思っていたら、タイミングよく今回の話が入ってきた。

母校を訪ねるのは卒業してからこれが初めて。
『現在活躍している卒業生』として、在校生に話をする。

「って趣旨だったよな、静久?」

整然と椅子が並べられた講堂には、花輪やら垂れ幕やらがずらり。
中には「Aチームより愛を込めて」なんて、冗談かと思うようなものまで。
まだあったのか、あの集団…。

「生徒たちにも注意はしたんですけど…神門さん、相変わらず人気者ですね」

自分の事のように嬉しそうに笑うこいつは、心底いいやつだと思う。
歓迎されてるっていうのは嬉しいが、こうまでされると少し落ち着かない。

「卒業して何年経ってると思ってるんだ…おまえも止めろよ、ひつぎ」
「あら、生徒の自主性は尊重してあげたいわ」
「だからってなぁ」
「早い話が、あなたは卒業してもなお輝きを放ち、人の心を捕らえ続ける星ということよ」
「…わけわかんねートコは相変わらずだな」

皮肉を言ったつもりなのにどこか優しい声音になったのは、きっと懐かしさのせいだ。
でも悪くない。
もしかしたら望んでいたのかもしれない。
戻れないあの頃の輪郭に、この指先で触れられるかもしれない。
そんなことを。

「…特別授業は午後からだから、それまで時間があるけれど」
「あぁ、適当に時間潰すさ」
「お相手はドナがいいかしら、それともサーマン?」
「…ウシもウマも要らん、てかまだ生きてんのか」
「30分前に講堂控え室へ来てください。最終打ち合わせをしますから」
「へいへい」

とりあえず、今日は肩に無駄な力を入れずに過ごせそうだってことだけで気分がいい。

「…神門さん」
「あ?」
「歓迎するわ、心から」

そりゃどうも、言いながら外へ出た。

「…静久」
「なんですか?」
「わたくしたちも、歓迎しましょう」
「へ?」

そんな会話がされてるなんて知らずに、学園内をうろつくことにした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ