春よ来い

□3月15日金曜日
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3月15日 土曜日

ひとしきり泣いたらスッキリした。一時的だとしても、随分と胸が軽い。瞼は重いけれど。

「そろそろ戻るかな」

行きと同じように原付に跨って、緩くアクセルを回す。
海岸沿いを走る。来る時には街灯と、遠くの港の工場の明かりが綺麗だった。
今は柔らかく降る太陽光と風が心地良い。

『やること変わってないのな』

ふと、圭吾の声が蘇った。
確かに、学生の頃も嫌なことがあるとこうやって海に来たっけ。
そのうちの数回は、圭吾も一緒に来たことがあった。
お互いに原付登校だったから、授業をサボって。

「悩んでる内容も変わってないけどね」

でもきっと、今度来るときは、その内容もかわっているだろう。

「そうしなきゃね」

誰にも聞こえない独り言も、この海に捨てて帰ろう。
そう思いながら帰路についた。今日も仕事だ。




太陽が真上に来る時間には圭吾が住むアパート到着した。道中でガソリンを満タンにして、コンビニで買った乾き物をシートに詰めた。駐輪場所に返して、圭吾にお礼のメールだけ送っておく。
今頃、昨日言っていた二次会の準備に追われている頃だろう。
ここから自分のアパートまでは少し歩かなければいけないけど、じっとしているよりは気分が浮上するから良いとしよう。
ヘルメットを抱えて歩きだした先、ふと目に入った桜の木。その枝に揺れる蕾は、店先にあるものより膨らんでいて。薄らと淡い桜色をのぞかせている。

「はーるよこい、はーやくこい」

口ずさんだ童謡の、その続きは出てこなかったけど。
みんなに、私に。そして、志保に。

「はーやくこい」

春が来て、その訪れを告げて欲しいなんて思いながら。
眠たい目を擦りながら、同じフレーズばかりを繰り返していた。


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