リクエスト

□オフの過ごし方(1日目・午前)
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制服だらけの中に私服でいれば目立つのは当然だ。
食事中もいろんな視線がぐさぐさと突き刺さって、途中から厨房内の邪魔にならないような所に避難して食べた。
中華鍋を豪快に振りながら、人気者だと大変だな、なんて大笑いするあのチビ二人の父(いや、母になるのか?いいか、父で)に、何故か紗枝が本当ですよと答えて。
それを聞いた父があたしの顔を見てまた盛大に笑って。

「やっぱ一人より二人で食べるメシのほうが、味なんか関係なしで美味いよな」

生徒たちの会話や笑い声、食器のぶるかる音に、調理をする音。
賑わいの中でそんな言葉がやけに耳に残った。



食事を終えて、これからどうするかと相談しながら正門へ歩く。

「つーか、また巻き込まれる前に帰るぞ」
「何かあったの?」
「あぁ、前来た時に『ではこれより第3回卒業生歓迎会を開始します』て」

…まぁもしかしたらと思っていたが。こうも当然のように出てこられるのも腹立たしい。しかも、聞き捨てならない単語を吐きやがった。

「あらっ、神門さんに祈さん。お久しぶり、来てたのね」
「白々しいなオイ…それよりも今の発言について聞きたいことがある。今すぐ宮本をここに呼べ」
「同じ敷地内にいて、こんなにも近くにいるというのに会いに来てくれないなんて…わたくし寂しくて寂しくて震えてしまう」
「あたしらに構ってないで仕事してろよ」
「何やら仕事よりも楽しそうな生徒たちの噂話が耳に入ったから」
「なるほど遊びたかっただけだな今すぐ戻れ」

相変わらず自信満々で、余裕で、わけわかんなくて、それでいて隙の無い佇まいで、ひつぎはそこに立っていた。

「折角遊びに来てくれた卒業生たちを放っておくなんて、わたくしの良心が悲鳴を上げるわ」
「…その悲鳴ってのは、やたらと愉快なその鼻歌か?」
「だから該当の剣待生には鐘の音と同時に連絡がいくようにいてあります。
ジャッジ!お二人に武器とジャージを貸して差し上げて」
「おまえってやつは本当にっ!っておい!」

溢れてくる言葉を遮ったのは、既に武器とジャージを受け取って手招きしている紗枝だった。

「それに今回は、楽しめるはずよ」

呆気に取られたあたしの耳元でそれだけ呟いて、いつの間にか離れた場所に用意されていた椅子にゆったりと腰掛けた。
近くの更衣室で渋々ジャージに着替えて、軽くストレッチをする。
手にした練習刀を二度三度振って感覚を馴染ませていく。その間に紗枝も薙刀タイプの練習刀をくるくる回して確かめているようだ。

「あたしは何回目眩を覚えればいいんだ」
「そうねぇ、今日で慣れるんじゃないかしら?」

昼下がりの春の陽気はあまりに穏やかで。それなのに、気持ちはどこか上擦っている。

「コレって打たれると色が変わるヤツだよな」
「そうね、当たったって丸わかりになるタイプね。真っ白のままで終わればいいんだけど」
「…何でそんなにヤル気なんだよ」
「え?だって、どの道やらなきゃいけないみたいだし。食後の運動ってことでいいんじゃないかしら」
「そんなに優しいもんじゃないだろ…」
「黒鉄さんのお父様の料理が美味しくて食べすぎちゃったから」
「それはまぁ…な」

そんな会話の最中に鳴り響いた鐘の音。宮本の渾身の拳が、音になって届く。
相変わらず腹の底にズシンと響いて、身体が熱くなる。

「ふふっ」
「何笑ってんだよ」
「ん?玲、肩が跳ねた」
「…おまえこそ、息が詰まった」

なんて、お互いの一瞬の変化を述べて。あの頃とちっとも変っていないそれに、静かに笑って。
程なくして周囲には練習刀を構える生徒たち。だけど今回は様子が違う。前と比べて人数が少ない。

「そうそう、全剣待生だと非常にしんどいということが前回わかったので、コンピュータによる選抜形式にしてみたの。ランクで言えばAから上ばかりになってしまったけれど」
「馬鹿じゃねぇか?!」
「そんなに心配しなくても、他の剣待生は普段通り星奪りを行っているから安心して」
「そうじゃねぇ!っ!」

騒いでる間にも迷いなく向けられた切っ先から伝わる威圧にすぐさま向き合う。
円の中心にいるあたしたち。じりじりと詰まっていく間合い。

「学生の皆さんには、通常のルールを適用しているわ。天の星を落とせば、地の星も失格。あなた方は二人ともが黒くなったら

――敗北」

空気が研がれていくその刹那。
とん、と背中に軽い衝撃と、温もり。そんなことに、心は落ち着いて。

「――なるわけねぇだろ、あたし“ら”が」

じゃり、っと足元で微かな音が鳴った瞬間、飛び出した。

一人じゃない。

あぁ、やっぱり、目眩がする。
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