リクエスト

□オフの過ごし方(1日目・午前)
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最後の鐘が鳴り響いて。

『皆さんナイスファイト!では解散!』

なんて馬鹿デカい声も響き渡って。
最後まで残ったペアはその瞬間に膝から崩れ落ちた。

「明日もオフで助かった…」

両膝に手をついて肩で息をする。人数が少ないと言っても、実力者ばかりを相手にするのは二人掛かりでも骨が折れる。
そう考えると、前に全剣待生とやり合えたあたしはまだまだ捨てたもんじゃない。
正直今すぐにでも寝転がりたいが、それは必死に堪える。

「一組残しちゃったかぁ。さすがに鈍ってるわね、全部いけると思ったんだけど」
「随分と…余裕、だな」
「うん。転がりたいなら転がっていいわよ?後で話のネタになんかしないから」
「絶対する気だろ」

そんな訳で、腰を下ろすだけに止める。
あたしだけ片腕を黒くした状態のジャージが何とも不格好だ。

「でもまぁ、上出来、か?」
「うーん…あそこで玲がもう一歩踏み込んでたら、貰わずに済んだかもね」

紗枝が押し切られてよろけたその瞬間を目の端で捉えたのと同時に、相手の懐に踏み込もうとした足が予定より手前に着地した。
その隙を見逃すほどの相手であるわけもなく、躊躇なく振り抜かれた刀身をそのまま左腕で受け止めた。

「でもその後、相手のコを投げ飛ばすとは思わなかったわー」
「あれは仕方なくだ!距離取りたかったんだよ、おまえが――!」
「私が?」
「……真っ白のままで終わりたいとか言うからだな、それで」

そんなのは建前で。

「そっか。ありがとう玲。でもどうせなら二人とも無傷で終わりたかったわー。私ってそんなに頼りない?」

本当は、あたしが見たくなかったんだ。打撃を受けるところも、その服が黒く染まるところも。
実際あたしが助けに行く前に紗枝はすぐに態勢を整えて星を落としていった。ものすごい笑顔で。余程押し切られたのが悔しかったらしい。

「あの時は身体が勝手に動いたんだ……頼りにしてなかったら、こんなことやってねーよ」
「ん。良かった」

わしわしと頭を乱雑に撫でられても、その手を振り払う気力もなく。
なされるがままにしていると、ガシャガシャと重そうな音が近づいてきた。ガシャガシャ…?

「良い仕合を見せて頂けたわ。飛び入り参加したくなるほどに」
「随分と楽しそうなのはいいが…その甲冑は何だ」
「あら。わたくしったらいつの間にトランスフォームを」
「コン●イ以上に謎だらけだよ、てめーは」

多分、あと数秒あれば、本気で乱入してきただろう。学生側で。

「またこういった機会があれば、是非仕合たいものだわ」
「殺す気か。んなことするなら二度と「そうですね、静久もいると楽しそう」ぇぞ」

その言葉に、ひつぎの眼が光る。まるで新しいおもちゃを手に入れた子どもみたいな、そんな眼。あぁ、宮本の仕事が増えたな。

「ああ、本来すべきことすら霞んでしまって、わたくし小躍りしてしまいそう」
「その格好でするのはやめとけ。つーか仕事を優先させろよ」
「素敵ね、未来は目が眩むほどに明るいわ。だから諸々霞んでしまうの」
「そーかそーか。羨ましい限りだ。そう思える術を教えて欲しいもんだ」
「あら、簡単よ?過去があるからこそ輝くの」

その言葉に、ひつぎを見上げた。

「迷いながらも真剣に考え、狂おしいほどの情熱と執着を持って、それら全てを一振りに込めて天地で過ごしたこと。
志高く、常に頂点を目指そうとする者たちとそんな剣を交わせたことが、わたくしの未来を目眩がするほど輝かせるの。

あなたがたと剣を交わらせたあの瞬間も、わたくしの未来を輝かせる、なくてはならない大切な過去」

言い切ると、簡単でしょう?と笑った。

「さて祈さん、楽しんで頂けたかしら?」
「えぇ、とっても」
「それは良かったわ」

座り込んでいたあたしには、即答した紗枝の表情は見えなかった。それでも、雰囲気でわかることだってある。
今のその表情を見れなかったことが悔しいなんて思うくらいの顔をしてるってことぐらい。

「神門さんは?」

その言葉につられて紗枝もこちらに顔を向けた。自然と上がったままの口角と、ほんの少し上気した頬のままで。
ひつぎはまるで答えなんて分かり切ってるとでも言わんばかり口調で、にんまりと口角を上げながら畳みかけるように。

「前回よりも、楽しんで頂けたかしら?」

ちくしょう。紗枝といいひつぎといい、どこまで見透かしてんだ。
そう思ったら、変な意地張って身体に無理させてることも馬鹿らしくなって、重力に従って寝転がった。
空の青とか、柔らかい陽射しだとか、何もしてないくせに満足そうなひつぎだとか、紗枝、だとか。
そこに在るのが当り前のように、視界に入って。



「あー、楽しかったよ。すげー楽しかった!」



それこそ、笑えるくらいに。
そう伝えると、紗枝もひつぎも微笑んだ。

いい景色だな、なんて、柄にもないことを思ったのと同時に。

いい景色、と紗枝が呟いた。



未来は、明るい。
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