ヤマアラシ

□私の気持ち
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『別れよう』


付き合って1年の記念日に彼氏にフラれるという人生の苦さを経験した翌日。


『先輩のことが、好きです』


一人になりたくなくて、仕事終わりに飲みに連れ出した職場の後輩にそんなふうに慰められて。
ありがとう、同情でも嬉しいよって返したら
ひどく真剣な目をして同じ言葉を繰り返された。

仕事は出来るのに、普段は子供っぽくて手のかかる子。
いつも、悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべて、
妹がいたらこんな感じかな、って。
男女問わず人気のある彼女にそんな風に慕われているんだって思ったら嬉しくて、私もだよと伝えたら、何故だか寂しそうに笑った。

それからしばらくして、その言葉は彼女の本気だと知った。
新規プロジェクトのメンバーに抜擢された彼女を祝う為に催された飲み会の帰り、不意に二人きりになった時。
あの日と同じように、真剣な表情をして、同じ言葉をかけられた。


『…よくわからないよ』
『それでも、好きです』


寂しいから。
誰かに側に居て欲しいから。
人に好かれる、その幸せを覚えてしまったから。


『これだけは約束して』


正直、この関係は長続きしないだろうと思った。
だから、その気持ちを了承したようなものだった。
彼女の気持ちを利用してるだけだと軽蔑されるかもしれない。

これはただの恋愛ごっこ。

それが同性が相手だとどうなるのか、興味が沸いた。


『わかりました』


その日からの毎日は不思議と新鮮で。
少しだけ、怖かった。
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