ヤマアラシ

□私の葛藤
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掛け直された電話が切れた。

まだ心臓がバクバクいってる。
頭では、先輩の言った言葉がぐるぐる回ってる。
夢、じゃ、ないよね…?

「ねぇ、碧(みどり)」
「なぁに?」
「ほっぺたつねって」

私の隣で寝そべっていた親友にそう頼むと、不思議そうな顔をしながらも言った通りにしてくれた。
うん、痛い。夢じゃない。

「なぁに?イイコトでもあった?」

くすくすと笑う息が、耳に掛かってくすぐったい。

「先輩が、さ」
「あぁ、好きって言ってくれない恋人さん?」
「が、本当に好きだから、って」

まさか、そんな事を言ってくれるなんて。

「良かったね」

言いながら頭を撫でてくる碧は高校時代の親友で、同じソフトボール部に所属していた。
碧がピッチャーで私がキャッチャー。
バッテリーを組んでいたこともあって、今でもこうして都合が合えば遊ぶ仲。

「これで少しは綾からノロケ話を聞けるようになるかな」
「そうだといいけど」

そう、付き合うようになって3ヶ月が過ぎたというのに、未だにキス(しかも触れるくらいの)しか進展がない。
そのことを碧に相談したら、押すだけじゃなくて引いてみろとアドバイスをされた。
その結果。

「やばい、嬉しい」
「よし、じゃあ私のお陰ってことで、お昼はオムライス作ってね」

いくらでも作ります。すぐに調理に入ります。
台所で準備をして、たまねぎを切っていると、自分のお腹に腕が2本回ってきた。

「碧、危ない」
「大丈夫だって。今までだって大丈夫だったじゃん」

肩に顎を乗せながら話すと、耳にキスをされた。

「…碧、また別れたの?」
「ふふ、正解」

こうして必要以上にスキンシップをしてくるときは、大抵彼氏と嫌な事があったとか別れたとかの場合で。
高校の時からそんなんだから、今ではその行為を咎めることもなく、逆に心配するようになった。
碧に構わず、たまねぎを刻んでいく。

「ほんとに続かないな」
「ほんとにねぇ」
「モテる人間てのは余裕があるというか何というか…羨ましいな」
「私は綾が羨ましいよ」

どの辺が?と思ったけど、考えてみれば私は恵まれてる。
同性しか好きになれない私に、偏見を持たずこうして友達でいてくれる碧や友達がいて。
しかも、本当に好きな人から、好きだと言ってもらえた。

「ま、碧が幸せになれないってことは無いから安心しな」
「何それ、プロポーズ?」
「ちげーよ、勘だよ勘」

当てにならないなぁ、と笑いながら背中から離れてリビングへ足音が向かう。
碧の足音は特徴がある。
左脚を少し引きずるように歩くから、ちょっとだけ他の人とリズムが違う。
その後姿を見送ると、足元の扉を開いてフライパンを取り出す。

「勘、てよりは幸せになってもらわないと困るんだよ…私が」

バラエティ番組でも見てるのだろう碧の笑い声を聞きながら、オムライスを完成させることにした。
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