ヤマアラシ

□私の迷い
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[今から行くから少しだけ待ってて]

待ち合わせ場所としてよく使われる場所。綾からの返信を読み終えて、携帯をしまう。
溜め息をひとつしてから空を見上げる。

「…きれい」

夕方の橙色と、夜の一歩手前の藍色が溶け合う。マジックアワーって言うんだっけ。
背の高いビルの隙間から覗くその色はいろんな思い出が詰まっている。
ここ最近だと、綾に告白をされてそれを受け入れた時。その前は、あの人に振られた時。
多分、気持ちに上下がある時に空を見上げる癖があるんだろう。そして、今日も。
こんな感傷に浸るなんて柄じゃないけど、どうしても思い返さずにはいられなかった。

「参ったなぁ」

自然とこぼれた声音は誰かに聞かせられないなぁと思った。誰か、なんて、一人しかいないけれど。




部署の飲み会ということで同僚と向かったお店には、なぜか他の部署の人も何人かいて。
その中には綾の上司で、私の同期の高平 進(たかひら すすむ)もいた。彼は私を見つけると、ひらひらと手を振りながら近づいてきた。

「よぉ、久しぶり」
「何でいるの?」
「捉まったんだよ。おたくの部長さんに」

そんな話をしながら離れた席に着いて会が始まったのに、終わる頃には隣にいた。

「ちょっとごめんなさい」

席を立って化粧室へ向かう。簡単に化粧を直してから外へ出ると、そこには進がいた。

「なに、進も化粧直し?」
「そうそうファンデが浮いちゃって…てコラ」

冗談に乗って笑ってる進の横を通り過ぎようとした時、くいっと腕を引かれた。バランスを崩して、その体に寄りかかる。

「危な…何してんの進、酔っぱらってるの?」
「いや酔ってないよ。だから、これは酔った勢いなんかじゃないって知ってて」

体の距離を離されて、両手で肩を掴むと、じっと目を見つめられる。
深呼吸したその後に続ける言葉の先を聞いちゃいけない、と思った時には遅かった。
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