リクエスト

□オフの過ごし方(1日目・午後)
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「で、ここはどこだ」

書類に埋もれたひつぎと静久、あと事務所の紅蜂サンと食堂の父に簡単に挨拶をして。
ここに来るまでに15時近くになっていた。

「あ、玲は来たことなかったっけ?」

さっさと歩いていく紗枝。さっきよりも都会に近いってことは分かるが、それだけだ。
生活音もしっかり聞こえるし、子どもたちの声もする。

「知ってたら聞か「しっしょーーーーっ!」ゲフッ」

身に覚えがあり過ぎる、脇腹への強い衝撃。そして、ちっこさ。

「く、そチビ!おまえ何でこんなとこに!」
「あぁんししょー!知らぬ間に有名人になってしまって…はやてにはもう手が届かない存在になってし痛い痛い痛い!愛が痛い!はじけるっ」
「うるせぇ離れろ、今日はいきなり乱奪りかまされて、身体が限界なんだよ…」
「お久しぶり、黒鉄さん」
「いのりん!…お?ししょーとお二人?」
「そう。玲と、二人」

あたしにしがみついたままのチビをひょいと抱き抱えて地面に下ろす。しばらく固まっていたかと思ったら突然奇声を上げだした。

「ふおおおぉぉぉおおおっ!」
「なんだよ?!」
「宴じゃ!ナギ!ちはるさん!宴のじゅんびー!」

ばたばたと建物に入っていったチビに呆然としていると、中から女性が一人出てきた。
紗枝が何かしら会話をしている間、その扉の表札にたんぽぽ園と書いてあるのを見つけて、なんとなく理解した。

「どうぞ、宴が始まりますから。紗枝さん、場所はわかりますよね」

そんなことを言うと、ちはるさんという人は先に行ってしまった。

「ここ、チビが褒賞金を充てて守ったっていう…」
「そう。いわばあの子の大切な家ね」
「あいつに会いに来たのか?」
「そう、お礼参り。いろいろお世話になったから」

その「いろいろ」の内容を聞こうとしたら、仏頂面のチビが出てきた。

「早く来てよ。はやてがうるさくて仕方ないんだから」
「あら、ごめんなさい」
「あぁ、姉貴のほうか」

こっちの方が、過度なスキンシップがなくていいんだが。

「ん?あー…そういうことか。はやてがうるさいわけだ」

あたしを見てニヤッと笑うとすぐに部屋に戻った。
続いて中に入れば丁度おやつの時間だったらしく、席に着いていた子どもたちが一斉にこちらを振り向いた。

「あー!いのりんだー!」
「いのりん久しぶり!」
「誰そのやさおとこー!」
「いのりん、こっちこっち!」

わっ、と。言葉が洪水のように押し寄せる。全員が一度に話すから何言ってるかきちんと聞き取れない。何か失礼なこと言ったやつがいる気もするが…。

「ほら、ししょーといのりんはここに座って。みんなで宴をします!」
「何のだよ」
「ししょーの生還&再婚記念だよ!他に何があんのさ!」
「勝手に殺すな!ちゃんと生きてたっつーの!」
「やっぱ、ししょーといのりんが一番しっくりくるね!よっ!ジョン&パンチ!」

おめでとー!いただきまーす!
というチビの掛け声に子どもたちも続いて。
騒がしく始まった宴という名目のおやつの時間は、始終笑顔の紗枝が隣にいた。





「ほいじゃね!ぜったいまた来てね!」
「まぁ、また来たら?」

腕が飛んでいきそうなくらいに手を振るチビと、上着に両手を突っ込んだままのチビ。
曲がり角で見えなくなるまで、ずっとそうして。

「双子の姉妹だってのに、あぁも違うんだな」
「そう?二人とも可愛いじゃない」

紗枝にはあれが可愛くみえるらしい。まぁ、天地にいた頃から随分とお気に入りだったけど。

「そういや、いろいろ世話になったって言ったけど」
「玲一さんのお子さんと遊びにきたりしてたから」
「あぁ…なるほど」
「ついでに個人的に癒されに」

ふーん、と相槌を打ちながらも、少しだけ先を歩くその背中が嬉しそうで。

「どうした、えらくご機嫌だな」
「ん?だって」

久々の再会だろうし、他の子どもたちにも慕われていたし、分からないでもないが。
少しだけ振り返ってまた前を向く。次に来るだろう返答を聞き逃さない為に隣に並んだ瞬間。

「再婚記念、ってところには突っ込まなかったなぁってね」
「ばっ?!」
「確かに私は再、だしね。ねぇ、同性同士でも婚約指環って作れるのかしら?」

口調はおどけていても、本当に嬉しそうに笑うから。

「……そういう対応してるブランドがちゃんとある」

以前調べた知識を、そっぽを向いて披露して。
黙りこくった紗枝の手を引きながら、次の目的地までの道のりを聞き出すことに集中した。
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