幼馴染み(音)

□歌うように
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テレビに映る男女は見つめ合い踊りながら、今夜こそ、と愛を歌っている。
そんな映画を律が珍しく真剣に観ているから、私の予定は狂ってしまった。


【歌うように】


つまらないから澪をかまう、とか、いつもならなるだろ。

今日もそうなると思ってた自分が少しだけ恥ずかしい。
ふぅ、と小さく吐き出したのは二酸化炭素と隣にいる律への不満。
そんなことに気付くはずもなく、律は画面に集中してる。普段はおどけてる方が多いから、真剣な顔を見るとドキッとする。

…かっこいい、な。

なんて思ってたら急に澪、って呼ばれたから、返事が少し上擦った。

「この人達、少しだけだとか親がいるからダメとか言ってるけどさ、こんなに大声で歌ってたらバレるよな」

……。

なんとも律らしいというか現実的というか。

「ミュージカル映画だから」
「帰るって言ってからも歌ってるしなぁ」

別れるのが名残惜しいのもわかるけど、と笑っていつもの律になる。

「まぁ、律はこういうタイプじゃないよな」
「んー、歌は澪しゃんに任せるよ」
「律は?」
「あたしが歌上手くないって知ってるだろ」

眉をハの字に下げて恥ずかしーし、と零す。
律の歌声、元気良くて好きだけど。
そんな会話をしたからか、集中力が切れた律がリモコンを手にする。
こちらを見て小首を傾げたから、うんと頷くと、思いがけずテレビの電源を切る。
不意に訪れた静寂。

あ、そうだ。

「じゃあ私が歌ってる間、律は何してるんだ?」

素直に疑問に思ったから尋ねると、隣でずっと聴いてる、と当たり前のように述べる。
それだけかと重ねて問うたら、すっと耳元まで顔を近付けてきた。

「歌わない代わりに、澪が歌い終わる度に抱き締めて愛してるって言ったげる」
「ば…っ!」

顔に熱が集まる。
どうだわかりやすいだろ、と余裕そうに笑みを浮かべる律。
でも律の耳も心なしか赤い。
うん、確かにそれも悪くない。
けど、それでも。

「…それじゃ、足りない」

あぁ何て事を言ってるんだと思ったけれど、言葉だけじゃ足りないのは事実。
ちらりと横目で律を見ると見事なまでに真っ赤になってた。
何を想像したかなんて恥ずかしくて聞けないけど、きっと同じこと考えてる。

「…そしたら澪、歌えない、ぞ?」

ぐっと縮まった顔の距離、そのくせ目が合わないのは律の唇に意識が行ってるから。

「…いいよ」

みんなと大声で歌うのもいいけどさ。
二人きりで、息継ぎの合間、耳元で囁くように愛を歌うのも悪くないだろ?

ありふれた言葉が『特別』になる瞬間は、律が相手じゃなきゃ出会えないから。

(あなたにしか聴こえない、あなただけの歌を歌おう)

りつ、という、たった二文字の旋律。
愛しい、愛しい、愛おしい歌。
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