お題小説

□いるはずのないひと
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あの夜、俺の大事な大事な幼馴染が永遠の眠りについた。
それは12月25日ーーークリスマスの夜だった。
俺はそれから、楽しいはずの…年に1回の待ち遠しい心躍るクリスマスが大嫌いになった。


俺は後悔と罪悪感に支配されていた。
そもそも、あの時俺が風丸を連れ出したりしなければ今も生きていたかもしれない。
きちんと医師の言うことを聞いておけば…こんなことにはならなかった。
俺は、俺は取り返しのつかないことをしてしまった。
しかしながら、風丸はもうこの世にいないから償う事なんてできやしない。

なんで風丸だったんだろう?
俺が病気になれば良かったのにな…。


そんなことを思いつつ、風丸の家の仏壇へと向かう俺。
風丸がなくなって1年が経とうとしている。
それでも俺は毎日風丸のところへと通わせてもらっている。
風丸の仏壇には、俺がプレゼントしたサッカ−ボールと生き生きとしている綺麗な青色の花が
…そして満面の笑みを浮かべている風丸の遺影写真が飾ってある。
きっと、風丸のおばさんが毎日花をかえてるんだな。
でなければ、こんな綺麗ではない。
こんなに若くして…まだまだ未来がある息子を失う辛さや寂しさははかり知れない。
青色…風丸の髪の色だな。
写真の風丸…笑ってる。
あまりの満面の笑みに風丸の声が聞こえてきそうな、そんな気さえしてくる。

いつも、何をしても、考えるのは風丸の事ばかり…。
会いたい。
もっと一緒にいたかった。
会いたい。少しでもいいから会いたい。
風丸にもう一度会えるのならば、何にもいらないから。


俺は風丸の仏壇にお線香をあげ、「また明日来るな!!」と告げて風丸の家を後にした。

帰り道、冷たい風が容赦なく俺の体をかすめてゆく。
もう冬なんだなと実感させられざるを得ない。
一応、マフラーや手袋など防寒着を着込み、防寒対策は完璧のはずだが寒いもんは寒い。
早く帰ろうと思い、走ろうと思ったのに…できなかった。
だって俺の前には、俺が一番会いたい人が…いるはずのない人がいたから。

「円堂」

そう呼ばれた。
あぁ、変わっていない。
信じられない気持ちもあるが、嬉しい気持ちのが大きかった。

混乱している頭の片隅で、あぁもうすぐクリスマスだったなと
大嫌いな行事が近づいていることを思い出した。

これはサンタさんが俺にくれたプレゼントかもな…なんて思ってしまった自分に軽く自嘲した。



いるはずのない人
 

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