あいのうた

□鏡
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俺達らしくない
最後の前の日を過ごした。
お互い難しい事をたくさん考えて
だけど
ほんの少ししか言葉にすることができなかった。

ごめんな
気付かなかったんだ
俺が悪いんだ
そんな顔するな

色んな言葉が
喉を通りすぎることなく
消えていった。
言ったら後悔したかもしれない
言わなかったことも
きっと後悔するんだろう。

お前の寝顔を見るのは
きっと今晩が最後になる。
なのに眉間にしわの寄った
穏やかとは言えない表情で
だけどやっぱり
変わらない
白い肌、長い睫毛、赤い頬、






なあ、なあ、
信じたくないんだ。
この部屋でこれから俺は
お前のいないこの部屋で俺は
生きていくって言うのか。

この一人用の布団の中で
寒い寒いと身を寄せ合うことも
無くなってしまうのか。

お前と過ごすうちに
そうだ
世の中にある色んな「一人前」を
ふたりで分け合ってきたわけで
明日からどうすればいいんだ?
俺にはもう、一人前は多すぎる。

つまり、そうだ
お前は俺の生活で

ああ、だめだな
また難しいこと考えちまうけど
俺は頭が悪いから
ちゃんと言葉にできないんだ。


明日の朝、
出て行くんだな。
今、
お前はここにいるのに、






「ちくしょ、」






丸まった布団が
もぞりと動く。
俺を入れる気は
微塵もないらしい。
寒い、けど。

つまり、そうだ、
何よりも、出てくる言葉は、
結局、ただそれだけだ。








「好きだ…愛、してる、」













丸まった寒がりの布団が
もう一度小さく動く音がした。













BABY
だけどもう、キリがないな。





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