ドール
□便利屋
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参ったな…。
全く融通が利かない。
今回の仕事は、今、目の前にいる男から赤い石を取り返すという簡単なものだったが、交渉も失敗に終わり、一度殴り付けてみたが、一向に埒が開かない。
「駄目なんだよっこいつはな俺が生き返る為に、必要なんだよっ!」
こういう奴は、追い詰められれば、血迷って何を仕出かすか、わからないので慎重にならねば。
便利屋は遅くも、そう判断して相手の出方を窺う。
大事そうに手に、眼球大の赤い石を握り締め、男は少しずつ後退る。
便利屋はそれに合わせて、距離を空けないようにする。
ハハハと男は、突然狂的に笑い出した。そして、男は赤い石を飲み込んだ。
「…!」
唖然とする便利屋を、挑発するように喚きだす。
「へへっ嬢ちゃん残念だったな…もう取り返せねーよな。賢者の石は俺のだ!ほら諦めて帰んな」
便利屋にはもうどうすることも出来ないと見たのか、先程まで切羽詰まっていた男に余裕が出て来たようで、饒舌になりだした。
便利屋はある事を諦め、溜息を吐いた。
「貴方に謝らないといけません。ごめんなさい。良く間違われますが、俺は男です。あと依頼主からは、生死問わずと承ってるので、最終手段に移させて頂きます。」
便利屋は右手を手刀の形に構えて、逃げられないように素早く男の胸倉を左手で掴み、手刀を男の腹に突き立てた。
男の大音量の断末魔が聞こえたが、無視して便利屋は作業を続ける。
「あ…悪魔」
朦朧とした意識で男は言ったが、便利屋は否定する。
「確かに悪魔ですが、俺はド低級ですので悪魔として扱われないのです。だから、強いて言うなら便利屋です」
腹から内臓を引き摺りだされ、散らかされた死体が残り、便利屋は丁寧に赤い石を握り悲しげに呟いた。
「死なないように丁寧にしたのになぁ」
ここは肉体の死を迎えた後に来る死後の世界。
ここでの死は魂の死。
肉体の死はとうに過ぎ、魂の死を今し方迎えた男をもう一度だけ見て、便利屋は依頼主の元へ行く。
万製作所。という死神の使う鎌や悪魔や使い魔等が、使う刀剣等の武器、その他様々な物を作っている場所だ。便利屋も仕事で何度か訪れたが、何を作っているのか全部把握出来ていない。
「お疲れ様」
「ニーハオ!」
「どうも」
仕事の完了を伝えに依頼主の元へ行くと、血塗れの便利屋の姿に驚くことなく三つの影が迎えてくれた。