cern

□c=adamas〜ipad〜
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通販で買った美顔器が昨日届いたおかけで

今朝の私はいつもよりひときわお肌ツルピカ美人

輝きを放っているわね

もともとの炭素原子が規則正しく並んだおかげで

大半の綺麗は生まれ持ったものだけど

ちゃんと表面を磨かなきゃ

ただの石ころ、炭素じゃない?

お隣の御主人は見とれて電柱にぶつかったし

商店街の魚屋の大将もポーっとして発泡スチロールの箱からハマグリぶちまけちゃうし

コンビニのバイト君は口開いてたし

派出所の巡査さんなんか無意味にホイッスル吹いちゃうくらい

今朝の挨拶で磨きの手応えを感じる私

美顔器と一緒に届いたipadで

今朝も車内で本を読む

あちこちから視線を感じっぱなしの私だけど

11時の方角から来る視線がなんだかおかしいわ

ipadにタッチしてページを捲りながら視線の元を確認すると

にこにこ笑って私を見てる美形男子高校生

またか

私の視線に気が付いて小さく会釈する

なによ

この前ごはんつぶついてるの教えてあげたでしょ?

助けてあげたでしょ?みたいなそんな余裕なワケ?

丸太の間に挟まって川の中で動けないアライグマのレスキューで

良いことした後の正義感と清々しさ、自己満足なんか感じてるワケ?

わからないじゃない?

アライグマ、丸太に挟まって遊んでたかも知れないじゃない

たかがお弁当顎につけてたくらいでね

勝ち誇って無駄な慈悲を飛ばさないでちょうだい

私は美形に向かって

え?

どなた?

どこかでお会いしましたっけ?

って顔してイジワルした後またipadに目を落とす

暫くしても美形の視線が飛んできて仕方ないので

髪を祓いながら美形の様子を観察すると

顎に指当ててにやにやしてる

は?

またついてる!?////

そんな筈ないっ!!

あれ以来念入りに出掛けの身嗜みチェックをしてるのに

私は下を向いてipadの電源をオフにして顔を画面に映す

ついてない…

ムッカ〜何?ついてないじゃない!

て事はこの前の事蒸し返して笑ってたワケ?

あー見なきゃよかった

私はipadの電源を入れてまた本を読む

そっちを見なくても11時の方角で体を悶えさせてクスクス笑ってる美形がわかる

ああ笑うがいいわよフン

ipadをバッグへ閉まって

駅に着いて降りようと席を立つと

慌ててまたついて来る美形

なんなの?

追いつかれないようにスタスタとホームを急ぐ私に

美形が後ろから

「あの、番号と名前っ!教えて欲しいんですけど!」

慌ててそう叫ぶ

結局それ?

やっぱりナンパじゃない!

人の事笑っておいて、実は気を惹かせる為でした、みたいな?

ハァ〜ア、そんな古い手勘弁してよね!

私は大袈裟にくるりと振り返って上品に聞く

「君の名前は?」

「は?」

は?

じゃないでしょうがぁ〜

口ポカンと開けてー

人に名前聞くなら自分から先に名乗るもんなのっ

これ常識!

まったく近頃の美形男子高校生といったら…

「君の、な・ま・え」

優しく気高くそう言うと

「あ、テミンです!」

って名乗りながらまた上品に笑ってる

ちょっと、逆でしょ

テミンが私の名前を聞いて

私が上品に笑うの!

「あの…名前…」

「教えない、残念ね」

そう言ってくるりと背中を向けて歩き出すと

「せめて型番だけでも…」

型番?何の事?

フラれたからってワケわかんない事言って誤魔化そうっての?

ホホホ、憐れね

「もしかしてキンドルですか?」

ハァ!?

外人じゃあるまいし

どんなあてずっぽうよ

でもザ・ゴールデン・ジュビリーとなら読んでもいいわよ

タイ王室にラーマ9世の治世50周年を記念して1997年に献上された

545.67カラットある世界最大の研磨済みダイヤモンド

まるでこの私、ウフフ

「わかった、リーダーだ」

リーダーて何よ、なんだか権威ありそうだけど英和辞書じゃあるまいし

「やっぱりipad?」

違うわよ、変な子ね、ipadで電子書籍楽しんでたけど…って

え・・・?

ムッカ〜////名前って、番号って、ipadの事聞いてたワケ?

まぎらわしいっ!だったら最初っから

綺麗なお姉さん、それは何処のメーカー使ってますか?

って聞けばよくない?

モデル名とか、型番とか、
始めからそう聞けばよくない?

わざわざ名前と番号って

まぎらわしくない?

どこのメーカー使ってるか知りたいだけなのに

私がテミンに名前聞いたから

なんで綺麗なお姉さん名前聞いてくるの?

僕ナンパされてるの?

ってなるじゃないっ!

名前聞いただけで私の名前も聞かれずそんな恥ずかしい失態を…

くやしーーーい!!

それでも品よく口角を上げて微笑みながら

屈折率の高い私はシンチレーョンな輝きを放って

今日も会社に向かうのだった

つづく

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