拍手夢
□胡蝶蘭
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「風紀の仕事にはもう慣れた?」
僕が応接室に書類を持ってきた彼女にたずねると、彼女は相変わらず表情を変えないでこたえた。
『はい。風紀の仕事、といっても、書類関係の仕事しかしていませんので、もう大丈夫です。』
「そう、良かった。」
『では、失礼します。』
そう言うやいなや、すぐに出て行こうとする彼女を、僕はいつものように引き止めた。
「あ、待って。せっかくだから紅茶でも飲んでいかない?」
でも、きまって彼女は、少し困ったように目を泳がせてから、言うんだ。
『ありがとうございます。でも結構です。』
ほら、今日もやっぱり同じ。
「そっか。‥‥、ねぇ、もう風紀委員、やめたい?」
『えっ?』
「僕がいきなり君に、風紀委員になりなよって言ったから、迷惑してるんじゃない?‥‥僕のことも嫌いみたいだし。」
彼女は僕の言葉を聞くと、少し焦ったように口を開こうとしたけど、僕はそれを遮って話した。
「僕は初めて君を見た時、何故かとても興味をそそられたんだよ。そんなことってあまりないから、面白がってそばに置いてしまったけど、嫌ならもう来なくてもいいからね。」
『なんで‥ですか?いきなり‥‥。』
彼女は、どうしていきなりこんな事を言うんだろう、というような少し困った顔をしていた。
「それはね、僕が気づいたからだよ。君への興味の正体に。」
『興味の正体‥‥?』
僕は少し自嘲ぎみに笑いながら、口を開いた。
「やっぱり、好きな女の子を嫌われながらそばにおくのは、つらいよ。」
固まってしまった彼女を置いて、僕は応接室を出た。
「じゃあね、今までありがとう。」
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