拍手夢
□ゼラニウム
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「別に花を生けるのは構わないけど、もっと他の花にしない?ゼラニウムの匂い、好きじゃないんだけど。」
僕は彼女から受け取った書類を見ながらそう言った後、顔をあげた。すると彼女は、泣きそうになっていた。
…えっ?何で?僕、何かした?どうして泣きそうなの?
僕に向けられるものに限定すれば、冷たい顔しか見たことのない僕は驚き、焦った。
そして…悲しくなった。
彼女が、涙なんて殆ど見せない彼女が、僕のせいで泣いている。
「…どうしたの?」
極力優しい声音で聞いたが、それでも彼女は、ビクッとなった。
あぁ、やっぱり嫌われてる。
でも、分かった。
彼女が他の奴らとにこやかに話しているのを見ると苛々したり、遠くから彼女の笑顔を見ると僕にその笑顔を向けてくれはしないかと思う、この気持ちは…
僕はハンカチで彼女の涙を拭った。
「泣かないで。君が僕を嫌っているのは知っているけど、泣くほど僕と話すのが嫌なの?」
そう言うと、彼女は驚いたように顔をあげた。
『違います。私、嫌い、じゃない、です。』
彼女は少しつっかえながら言った。
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