拍手夢

□勿忘草
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彼女はさっきから、窓の外を見て何か考え込んでいる。


何かあったのかな?


僕は彼女のすぐ傍に行って聞いてみた。


「何をそんなに考え込んでいるの?」


『……ルドルフに残されたベルタの気持ちについて。私は嫌よ。絶対、嫌。』


彼女の視線の先には、花壇の中で勿忘草が咲いていた。


僕はその花を見て、彼女が何の事を言っているのか、やっと理解した。


確か、ルドルフが川岸に咲いた勿忘草を恋人ベルタの為に取ろうとして川に落ちて帰らぬ人となり、最後にベルタに「僕を忘れないで」って言ったっていうドイツの話だよね。


『勝手だわ、ルドルフは。死ぬ前に、僕を忘れないでって言うなんて。残されたベルタの気持ちはどうなるの?』


彼女は言いながら、涙がこぼれそうになっていた。


『私はそんなの嫌。愛する人に残されるなんて、嫌。』


彼女はそれまでずっと窓の外の勿忘草を見ていたが、ふいに僕の方に向き直った。


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