拍手夢

□花菖蒲
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『きょーうや!』

僕が応接室のソファでくつろいでいると、彼女がやってきた。

「何?今忙しいんだけど。」

『うわ、優雅に紅茶飲んでる人が何言いますか!』

「‥‥何か用なの?」

『恭弥、冷たーい。』

「これが僕の普通。」

『愛が足りないー。ラブは大切だよー、ラブはー。』

彼女は手でハートを作りながら言った。

『そんなんだったら愛しのハニーに逃げられちゃうよー。』

ごめんね、って言って抱きしめても良かったんだけど、頬をぷうっとふくらませる彼女が可愛くて、ついからかいたくなってしまった。

「愛しのハニーって‥‥誰の事?」

『ふーんだ!いいもんねー。はい、これあげる。花菖蒲。』

いつもならもっと怒るのに、今日は怒らないどころか、笑っているのを不思議に思いながらも花を受け取った。

「ありがとう、君が生けたの?」

『うん、生け花部さんに古くていらない剣山もらったから。日頃の気持ちを込めて、恭弥の為に生けてみました!』

「日頃の気持ち‥‥?」

僕が不思議そうに言うと、彼女は笑いながら言った。

『どんなにそっけなくても、構ってくれなくても、恭弥が私を大好きだって事、ちゃんとわかってるからね!って事。大好きだよ恭弥。』

「‥‥っ!」

多分赤く染まっているであろう顔を隠す為に、横を向いた。

やっぱり、僕は君にはかなわない。



花菖蒲(はなしょうぶ)
―花言葉は「貴方を信じる」


Photo by季節の花300

2009年 5月掲載

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