拍手夢
□花菖蒲
1ページ/1ページ
『きょーうや!』
僕が応接室のソファでくつろいでいると、彼女がやってきた。
「何?今忙しいんだけど。」
『うわ、優雅に紅茶飲んでる人が何言いますか!』
「‥‥何か用なの?」
『恭弥、冷たーい。』
「これが僕の普通。」
『愛が足りないー。ラブは大切だよー、ラブはー。』
彼女は手でハートを作りながら言った。
『そんなんだったら愛しのハニーに逃げられちゃうよー。』
ごめんね、って言って抱きしめても良かったんだけど、頬をぷうっとふくらませる彼女が可愛くて、ついからかいたくなってしまった。
「愛しのハニーって‥‥誰の事?」
『ふーんだ!いいもんねー。はい、これあげる。花菖蒲。』
いつもならもっと怒るのに、今日は怒らないどころか、笑っているのを不思議に思いながらも花を受け取った。
「ありがとう、君が生けたの?」
『うん、生け花部さんに古くていらない剣山もらったから。日頃の気持ちを込めて、恭弥の為に生けてみました!』
「日頃の気持ち‥‥?」
僕が不思議そうに言うと、彼女は笑いながら言った。
『どんなにそっけなくても、構ってくれなくても、恭弥が私を大好きだって事、ちゃんとわかってるからね!って事。大好きだよ恭弥。』
「‥‥っ!」
多分赤く染まっているであろう顔を隠す為に、横を向いた。
やっぱり、僕は君にはかなわない。
花菖蒲(はなしょうぶ)
―花言葉は「貴方を信じる」
Photo by季節の花300
2009年 5月掲載
.