―――時刻は『元旦』になる少し前の深夜。

「もうすぐ1年も終わりますね」

窓越しから既に漆黒に染まった空を見つつも、ジェイは目の前の恋人に向けて言葉を呟くように漏らした。

「あ?…あー、そう…じゃったかの…?」

「何ですかそのリアクション。これだから馬鹿は…」

ジェイの言葉にポリポリと頭を掻きながら、疑問するニュアンスを含んだ言葉を途切れながら零したモーゼスに呆れたような、馬鹿にしたような視線を向ける。

―――流石は馬鹿。時という感覚さえも持ち前の野生の勘を活用しているらしい。


「馬鹿違うわ。全く…年が明ける言うんにワレは相変わらずじゃのう」

「あはは、なら変わってみましょうか?きっと悶絶すると思いますが。」

「…そうじゃろうな」

―――元旦の日が訪れる、という事はこの悪態ばかりつく小さな恋人と恋に墜ちて同棲生活を送るようになって早1年以上の月日が経ったと言う事になる。

クスクスと笑うその表情は悪戯っ子そのもので、思わずこちらまで笑みを零してしまう。

「…ねぇ、モーゼスさん」

「ん?」

急に陰ったその表情で呼び掛けるジェイの顔を窺いながらモーゼスは愛しさと優しさを帯びさせた声色で応答する。



先程の悪戯っ子のような笑顔は消え失せ、代わりに不安気な表情を浮かべるジェイ。

何時もそうだ。ジェイは虚勢を張っているものの、内面は儚くて弱い。

―――だからこそ、…自分が護ってあげたいと思った。


「どかあした?」

「…後悔、してませんか…?ぼくと一緒になって…」

二人は同性同士で惹かれ合って。しかもジェイは特殊な環境下にいて。同棲生活を送るまでの課程は数知れずの苦労を経てきた。
駆け落ち同然で同棲生活まで辿り着いたのだ、彼の養父から逃れるように。


何だかんだで幸せな日々。しかし、ジェイの胸内は不安が募っていた。―――本当で自分でいいのか。同性で天の邪鬼な自分で本当にいいのか――と。




「…………アホ」

「なっ…!ぼくは真面目に…」

「―――愛しとる。」


悪態を吐いたモーゼスに反論を上げようとしたジェイだったが、唐突なモーゼスの告白に言葉を詰まらせた。

「……大丈夫じゃ。恐いんはワイも一緒じゃ。―――じゃけど」

ギュッと大きな身体を用いてモーゼスはジェイを抱き締める。

恐いのは不安なのは一緒。
何時かこの恋にピリオドが打たれてしまうのでは無いかと。同性である自分でいいのかと。


「ワレが隣りにおる限り、きっと大丈夫じゃと信じとるから」


根拠は無い癖にはっきり告げるモーゼスにジェイは驚愕で目を見開かせる。

すっと自身の武骨で長い指を、この少年の細く華奢な指を絡めさせる。



絡め合わせた二人の指には愛の証である指輪が填められていて。それは消極的ながらもしっかりと主張するもので。
互いに見つめ合い、どちらかと言わずに口付けを交わす。


――――その時だ。除夜の鐘が、静寂にしかしはっきりと音を鳴った。


「ジェー坊」「モーゼスさん」

余りにタイミング良過ぎるこの展開に互いに笑みを零す。




―――――恐いけど、きっと大丈夫。―――だって。


「「A HAPPY NEW YEAR」」

貴方が傍にいるから。だからきっと大丈夫。

新年も、貴方と一緒に不安と希望で沢山の可能性を秘めた恋愛を繰り広げよう―――。




fin







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