蘭拓連載

□桜前線 〜小さな恋の物語〜
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【神童家・屋敷】
拓人:「休養…ですか?」
父:「そうだ,最近のお前は疲れが溜まっているようだからな。」
あれは俺が八つになったばかりの事。
東宮の座につくための勉強ばかりの毎日で気が塞いでいた俺に,お父様が休養を取るように言い出したのが始まりだった。
拓人:「しかしお父様,突然休養を取れと言われましても何をしたらいいのか…。」
俺がそう答えるとお父様はこう言った。
父:「心身を共に休ませるには,自然と触れ合うのが良いと聞く。」
拓人:「はい。」
父:「丁度今は春だ,和泉にでも行くといい。あそこなら治安も良く,休養を取るには最適だろう。」
拓人:「しっ,しかし…」
父:「異議は認めんぞ。移動用の馬車は用意してある。」
拓人:「ですがっ…!」
父:「東宮を目指すのも良いが,それで身体を壊しては意味がなかろう。」
拓人:「…っ!」
結局俺の反論も虚しく,半ば強制的に休養のため和泉へ向かう事となった。
お父様の部屋から出て自室へと戻り,母上から頂いた横笛を吹く。
〜♪〜♪♪〜♪〜
横笛独特の優しい音色が屋敷に響く。
窮屈な日々の中で笛や琴を奏でているこの時間だけが,唯一癒される時間だった。
今までずっと屋敷で勉強に励むだけの日々だったのだ。
今更どこに行こうと,誰と出会おうと,別に俺の人生には関係の無い事だと思っていた。
しかし…,この考えは間違いだった事に気付いた。
否,気づかせてくれた。
和泉で出来たはじめての友人,そして…愛しい人との出逢いが。
俺の総てを大きく変えたんだ…。
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