異邦人大系 短編集
□おれがオンナで、相手はネコで。
19ページ/20ページ
『────ほら、さっさとしろ』
『…………………、』
身を乗り出して、目を瞑る。
押し倒した状態はそのままで
ネコが届くくらいの距離にまで
顔を近づけてやり、事を待つ。
(だっせー奴……)
…そう心の中では
相手を罵りながらも、
キスごときを待ちわびて
胸高鳴らせてる自分自身も
相手に負けず劣らず、
ダッセーとつくづく思う。
『………………、オイッ!! 何してんだ、さっさとしろ! 人をおちょくってんのか…!!』
痺れを切らして目を開けると同時、
羞恥心から相手の事を怒鳴り散らした。
『…………ごめんなさい──、』
顔を逸らし、片手の甲にて
口元を隠して目を瞑るネコの姿に
イノセントはそれがどういう状況なのか
理解が全くできなかった。
『んだよ?! オレに、自分からキスすんの、嫌だってか──!!?』
瞬間的に頭に血が上って
ネコの髪を鷲掴み
頭を押さえつけると
ネコは視線だけをゆっくり
こちらへと寄越した。
『………違います、』
『じゃあ、何だよ!? お前も、オレの今のこの状況を嘲笑ってやがるのか──!?』
『…違いますよ!』
突然、優人は身体を起こしたかと思うと
押し退けられベッドから転げ落ちそうになった
イノセントの手を素早く取り、
腰に腕を回し、支えた。
『……………、』
『…真木さんが仰ってたんです。薬の効き目を解くには“好きな相手からキスをされる事”だって───』
『……?、だから、早くしろって言って……!!』
『だって…!! ──だって。…それで万が一、イノセさんが元に戻らなかったら………』
イノセントは意味を取り兼ね
優人を無言で見つめた。
『───俺、イノセさんの事が好きです。大好きです』
何を今更とは思いつつも
改めて言葉にされると
イノセントは、
顔が熱くなるのを感じた。
『……もし。もし、それでイノセさんが元に戻れなかったら。つまり、は────そうゆう事でしょ…??』
『…………っ、』